第2章 出会いと再会 26

「朝飯ありがとう。じゃあな…」光司


光司は何もなかったように愛想のいい適当な笑顔だけを奈々に向けて別れの言葉を伝えると振り返ろうとする光司を奈々は無言で抱き留めた。


「ずるいよ。 私が無理やり引き止められないように靴履いてから顔向けるとか…」奈々


「もっと一緒にいたいって言ったら……こうちゃん私のこと嫌いになる?」奈々


光司は奈々の想いに少し前から気づいていた。

でもその想いを受け止められるだけの余裕も奈々への気持ちも光司にはなかった。


だから離れるべきだとわかっていたのに光司の苛立ちを毎回優しく受け止めてくれる奈々に光司はつい甘えていた。


「ごめん、もう行くわ…」光司


短くそう返すと奈々は仕方なく抱き留めていた腕を解き光司を解放した。


すると光司はそのままドアノブに手を掛けると何も言い残さずに奈々の部屋を後にした。


それから数日後京都では、彰人が通う芸大の学園祭が行われていた。


それぞれのコースから出された作品がたくさん展示され、出し物も賑わっていた。


そんな中、賑わう校内を璃子は彰人を探しながら一人で歩いていた。


「おっ、璃子ちゃん!」直哉


「なおくん…!」璃子


璃子は向こうから歩いて来ていた彰人の親友の直哉とばったり出会うと手を振って近づいた。


「なおくん1人?」璃子


「あぁ。 彰人探してんのか?」直哉


「そうなの。時間あるから一緒にまわらないかなと思ったんだけど」璃子


「そっか…」直哉


「じゃあせっかくだし、一緒に油絵の展示見て行かない? 私まだあきくんの作品見てないんだよね」璃子


「えっ…あぁ、いいぜ」直哉


『アッキーの作品か…まあいざとなりゃあ、俺が代わりに説明すれば問題ねぇだろ』直哉


心の中でため息混じりに呟きながら直哉は展示室に入っていく璃子の後ろ姿について行った。

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