第2章 出会いと再会 25

その頃、宝道家では昨夜日和を診察した女医の鳴海響子が今朝早くにもう一度訪ねてきていた。


日和は部屋で診察を受けながら何気なく質問した。


「先生、私の怪我に何か問題でも?」日和


「いいえ、そんなことありませんよ。 ただ念入りに調べているだけです」響子


思えば日和は昔から怪我をしたり流行病にかかったときなどいつもこの女医が屋敷までわざわざ訪問して見てくれていた。


「問題ありませんね。 頭に少しこぶが出来ているけど3、4日で治るでしょう」響子


「はい、ありがとうございました」日和


それから女医は診察を終えて日和の部屋を後にすると真っ直ぐに廊下を歩いて行った先に里実が壁に背をもたれて待っていた。


「お待たせいたしました。 奥様」響子


「いつも急に呼び出してごめんなさいね」里実


壁にもたれていた背を起こして里実も向かってくる女医の方へ歩み寄った。


そして丁度向かい合うかたちになると里実は手提げ袋から現金100万を取り出して慣れた手つきで女医に渡した。


「たかが診察だけでこんなにくださるのは奥様以外に私は知りません。 あっそれと、検査の結果特に異常は見つかりませんでした」響子


「小さなこぶはありましたがあの程度なら、大したことはありません。その他の初期症状も見られませんでしたし至って健康かと」響子


「なら良かったわ。 今後もよろしくお願いしますね、鳴海先生」里実


不敵な笑みを浮かべてそういうと女医はにやりと微笑んだ。


「もちろんですとも。 だって奥様と私は運命共同体ですから」響子


あれから光司は奈々と朝食を済ませると早々に帰路に着こうしていた。


「もう帰っちゃうの…?」奈々


彼の気を引きたくていつもより甘えた声で玄関へ向かう光司の背中にそう言うと靴を履いてから振り向いた。

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