第2章 出会いと再会 20

席から立ち上がって背を向けると誠司は光司の背中を引き止めた。


「光司」誠司


「あまりあっちの家で騒ぎ起こすなよ。 お前が騒ぎを起こして一番困るのは父さんなんだ、それだけは忘れるなよ」誠司


誠司は振り返らない弟の背中を見つめながら真っ直ぐにそう言うと、光司は無言でその場を後にした。


それから部屋に戻った光司は乱暴に扉を閉め切ると抑えていた苛立ちが今にも体を突きぬけて暴れ出しそうだった。


「クソっ…!!!」光司


「ははっ…俺が騒ぎを起こして一番困るのは父さんだと。 相変わらず優等生ヅラしやがって、自分の立ち位置が誰にもおびやかされないと信じ切ってるんだな」光司


乾いた笑い声には実の兄への軽蔑と拒絶が滲み出ていた。


光司は昔から優等生の兄とは上手く反りが合わなかった。


運動も勉強も出来た兄の誠司はよく両親の自慢だった。そして、その弟である光司が昔からずっと言われ続けてきた言葉は“お兄ちゃんを見習え”だったーーー。


その言葉はいつの頃からか光司の中で呪いの言葉と化し、そして大人になってもそれは変わらず兄の誠司は当然のように良い大学を上がり、当然のように後継者になった。


誰を妬むこともなく、昔から誠司の立場はずっと安定していた。 そこから生まれた兄の余裕に対し光司はずっと劣等感と嫌悪感を抱いていた。


どうにも出来ない苛立ちとうちから湧き上がる負の衝動を抑えきれなくなった光司は携帯を片手に取り出し誰かに連絡を取り始めるとしばらくして光司は財布と携帯と薄手の上着だけを持って家を出ていった。

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