第2章 出会いと再会 8

彰人は日和があの屋敷の中でどういう扱いを受けているのかずっとわかっていた。


対外的には家族として扱われても、日和はあの家に来たときからいつも広い自室でひとりぼっちだった。


それでも、どんなに厳しい毎日の中にいても日和は決して泣かなかった。


そんな強くあろうと一生懸命に生きる日和の姿を密かにずっとそばで見ていた彰人の心にはいつの頃からか恋心が芽生えていた。


でも、その恋心も日和の婚約という形でいよいよ終わりの時を迎えるのだと彰人は身をもって感じていた。


その時、テーブルの近くに放置していたかばんの中から携帯の着信音が聞こえてきた。


気だるげな気持ちのまま彰人はベットから起き上がって携帯を取りに行くと表示されていた名前は彰人の恋人の璃子だった。


「もしもし」彰人


「あっ、あきくん~。いま大丈夫?」璃子


「うん、大丈夫だよ…どうしたの?」彰人


「実はね、今度うちの家族が旅行に行くんだけど、私は進路のことがあるから留守番なの」璃子


「そうなんだ」彰人


「でね、もし良かったら…旅行は無理だけど私たちもどっか行かない? 近場になるかもだけど」璃子


彰人と付き合って1年になる恋人の宮野璃子は彰人と同じ芸大に通う4年生。おしとやかな見た目と控えめながらも明るくいつも周りに気を使える彼女は周囲から見てもまさに理想的な恋人だった。


しかし、璃子は彰人が宝道グループの御曹司であることをまだ知らなかった。


「どうかな…?」璃子


「良いよ、行こ」彰人


短くそう返すと電話越しでも分かるほどの安堵のため息を璃子は零すと嬉しそうに笑顔を浮かべた。

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