第2章 出会いと再会 7

それは最寄りの駅から出てすぐのことだった。


着信に気づいて何気なく電話に出ると相手は会長の秘書兼執事の栗山だった。


『お久しぶりです。彰人さま』栗山


『今さら連絡してくるなんて何の用だ』彰人


久しぶりに聞いた相手の声にずっと離れていた実家の感じを思い出すと自然と当たりがきつくなっていた。


『実はこの度、日和さまがご婚約されることになりました』栗山


『えっ……?』彰人


その一言で彰人はつい歩みを進めていた足を止めた。


彰人の動揺など露ほども知らない栗山は淡々と話していた。


『年内には二人に式を挙げさせると会長の指示がありましたので、是非とも彰人さまにも宝道家の次期後継者として参加を』栗山


『俺は…! もう後継者じゃないーー』彰人


耐え切れなくなった彰人は栗山の話を遮りそれだけ返すと一方的に電話を切った。


その後、どうやって歩いて部屋まで帰ってきたのか彰人はほとんど記憶がなかった。


“血の繋がらない妹”それが彰人の初恋だった。


忘れるために努力し続けた。 家も地位も捨ててまで彰人は日和を忘れなければならなかった…


そうして時間をかけてようやく初恋の思い出として区切りを付けられたと思っていた。


婚約の話を聞くまでは……。


どっと疲れた体を安いベッドに沈めるときしむ音がやたらと耳障りに聞こえた。


何も見たくなくて片腕で両目の視界を覆うと目の前は真っ暗になった…でも、不思議と浮かんで来たのは日和がかつて彰人にだけよく向けていた笑顔だった。


『告白なんて、出来なかった……。 だって、俺が日和に男として告白したらあいつは今度こそ家族が誰も居なくなってしまう』彰人


『俺はあいつを孤独にさせてまで、自分の気持ちを伝えたいとは思わない…』彰人

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