第1章 二人の令嬢 6

グループの現会長である三千恵も取締役社長である一義も当たり前のように長男の彰人が後継者になると硬く信じていたため当時はまさにありえないような状況だった。


そして彰人が家を出て行ったあと、もう一人の財閥の血を引く彰人の妹、和実が急遽後継者候補となった。


長い黒髪にカールを充てて前髪もふっくらさせるなど形状にもこだわり、お気に入りのブランドの紫と黒が特徴的なりぼんのカチューシャを着けるといった華やかな見た目を好む和実に当初三千恵は後継者候補としてかなり不安視していたが、派手な外見とは裏腹に和実は学内で成績が常に5位以内に入るほど優秀だった。


「大学の推薦だってもらってるんだから心配しないで」和実


「ええそうね。 期待しているわ」里実


柔和な笑みを浮かべてそう言うと、里実はそのまま和実の背後を通り過ぎて行きその場を離れていった。


あれから日和は一人広い自室で拭いきれない思いを抱えながら静かに赤川次郎のポイズンを読んでいた。


日和の部屋には幼い頃から里実に渡された礼儀作法や語学以外にも様々な本や資料で壁一面埋め尽くされていた。


5歳で雨の中、破産した両親に捨てられた日和は偶然見つけられた里実に拾われたあの日から自由というものとは縁を切った生活を余儀なくされていた。


小学校に入学する前から丁寧語、尊敬語、謙譲語を覚えさせられ対面時の礼儀作法のほか茶道や華道も拒む余地もなく習わせられた。


小学校に入っても友達と遊ぶことは許されず、こっそり遊んでいたことがばれた日は翌日その友達は学校を休み、1週間後再び登校することなくその子は転校した。

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