第1章 二人の令嬢 5

「その事は事情があると何度も言ったはずよ!」里実


「ええ…でも、その事情も娘の私には言えないんでしょ」和実


和実の言葉にそれ以上何も返さない里実に和実は多少の苛立ちを感じながらもため息を一つ付いてこれ以上の追求を諦めるしかなかった。


「とにかく私は1日でも早くあの女にこの家を出て行って欲しいの」和実


「あんな財閥気取りの貧相な貧乏女とこの私が世間から姉妹だなんて一緒に思われているのがいつも虫唾が走るくらい嫌なのよ!!」和実


「心配しなくても日和はこの家から追い出すわ」里実


「えっ…?」和実


里実の今の行動からは意外な言葉に思わず一瞬戸惑う和実は里実の真意を測りかねていると里実はすくっと席を立つと何気なく和実の方へ歩み寄って優しく頭を撫でた。


「あなたは何も心配することはないわ。 来年高校卒業でしょ? 日和のことなんて気にかけている場合じゃないはずよ」里実


「本来グループの後継者であるはずの彰人あきとがお祖母様とお父様に刃向かったりしなければあなたが苦労することもなく好きなことさせてあげられてたのに…我が子ながら恨めしいわ」里実


愛娘を思う母・里実の言葉に気を良くした和実は嬉しそうに微笑んで返した。


「兄さんのことはしょうがないわ。 元々経営にもグループのことにも興味がなかったのよ」和実


「でも大丈夫よ、私が兄さんの代わりに大学で経営学を学んで宝道グループの次期後継者になるから」和実


和実より4つ年上の兄、宝道彰人ほうどうあきとは大学の進路を決める際に祖母の三千恵と父の一義が薦める大学には行かないと言い出し、さらに大学では経営ではなく美術を専攻しグループの跡は継がないと突然言い出したため当時三千恵と一義と大喧嘩し高校を卒業したあと彰人はこの家から出て行った。

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