第1章 二人の令嬢 4

日和は名門の女子大の短期学部に通っていた。

短大の入学は祖母の三千恵が決め、専攻分野である文学部も三千恵が決めていた。


しかし、幼い頃より財閥の令嬢として相応しい教養を身につけなさいと里実に厳しく育てられた日和は20歳ですでに英語、韓国語、スペイン語、フランス語などマルチリンガルとして語学の才能にけていた。


通訳官は日和のその才能を活かすにはまさに相応しい道だったが、日和の真の目的は才能を活かすことではなかった。


「だめよ。 通訳官は諦めなさい」里実


「それはなぜですか?」日和


「しらばっくれても無駄よ。 通訳官になれば世界中を飛び回り日本にはほとんど帰って来なくなる」里実


「あなたがこの家を出たがっていることくらい見抜けないとでも思ったのかしら?」里実


「お母様…」日和


カタンッ…と里実はわざとらしく音を立ててティーカップを置いた。

15年という決して短くはない年月を共に過ごしてきた日和には分かる。 養母ははが怒っていると……


「日和、あとで行くから先に自室で待っていなさい」里実


「はい、お母様…」日和


日和の方を見ずに里実はそう言うと俯いて決まりきった返事を返すしかない日和はそのまま静かに席を立ち一礼するとその場を後にして行った。


すると出て行く日和の後ろ姿を終始不機嫌そうに見つめていた和実が隣りにいる里実に苛立ちながらも聞いた。


「お母様、なぜ日和をうちに入れたの?」和実


「今さら何の話かしら?」里実


「とぼけないで、あの貧乏女をあの日拾ってきたのはお母様でしょ?」和実


「私という娘がいながらあんなの養子にするなんてっ!」和実


一度口に出した不満は止まらず、つい身を乗り出しそうな勢いで里実に積もる疑念をぶつけると里実は厳しい視線を和実にぶつけた。

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