第3話 瓶に栓をして

引き受けたからには面白く楽しくぐっちゃぐちゃにしてやろう。そう思うのが栓というOLであった。普段の事務員としての出勤、業務、退社の日々の中にもたらされた悪戯のチャンスに、獲物を見つけた子猫のように目を開いて光らせる。

彼女という人間は周りからは距離感をうまく掴めない人だと思われている。その言動はときに真実をズバリと言いきってしまったり、遠回しな言い方になってしまったりするからだ。それは彼女自身も認識していることである。

だが同時に策略家でもあった。自分の目的のために人を動かすさまざまな言葉を、巧みに話すことができるのだ。今回の件とて例外ではない。自分が3人目になるために母親をうまく誘導した。そして次の人にさらにリレーを繋げてもらう必要がある。

彼女はさてと考える。果たしてどうしたら一番面白くなってくれるか。思考はぐるぐると巡るがこれといったアイディアは浮かばなかった。その日はとりあえずほろよいを飲んで寝ることにした。

次の日の事務処理をしている途中、彼女に天啓が舞い降りた。それはかつて憧れてしかし不可能だろうと諦めたロマンチックな夢である。白雪姫が好きだったかつての少女が描いたブルーな夢。今一度王子のキスを待つときがきたのだ。

「今日栓さん機嫌いいね?なんかあったの?」

「ちょっとだけね。」

笑いながら押し付けられそうになった仕事を振り払い、彼女は帰路につき、早速その準備を始めた。

「ちょうどいいしお酒買って今夜は飲むわよ!」


はじめまして。私はSennといいます。

この手紙を読んでいるということは、あなたはとってもいい人か好奇心旺盛な方ですね。

いずれにしてもこの文章が誰かに読まれたこと、とっても嬉しいです。

この文章はとある幼い子供の思い付きによるリレー伝言、その一つです。

その子供は母親に手紙を手渡し、母親はわたしにチャットにそれについての相談を書き込みました。その次にお鉢が回ってきた私が書いているのがこの文章なのです。

拾ってくれた方、どのような形でも構いません、次の人にこの言伝のバトンを渡してください。幼い子供が考えた精一杯の思い付きを私は大事にしたい、無下にはしたくないと私はそう思っています。


拾ってくれた方ならわかると思いますが、こんな方法でリレーをしたら次の人に届くまで年単位で時間がかかってしまうかもしれないです。しかしそれでもいいと私は思っています。時代を超えて想いが伝わる、それもまたロマンチックじゃありませんか。

どなたでもどんな形でもいい、たくさんの人を経由して最後に差出人に戻ってくるこのリレーにあなたを意思を注いでください。よろしくお願いいたします。



追伸 申し訳ないですがビンは持ち帰って捨ててくださいね



「これで良し。」

彼女はにやりと笑い、今飲み切ったばかりの酒ビンに紙を丸め入れて栓をした。明日の出勤途中に川から流そう。だれか気づいてくれるかな。それとも海の藻屑になってしまうのかな。遠く未来へと思いを馳せて彼女は幼き少女のように眠りについた。

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