第32話 3人からの告白

「何ジャージ来てんのアンタ」

「浴衣でしょ、旅先なんだから」

「雨見さんの浴衣姿、見たいです!」

「いや、初旬とはいえ11月の大洗は寒いですから……」


 気持ちはわからんでもないが、実際暖房を入れるくらいには冷える。


「情緒ないなー」

「何か減るものでもなし」

「えい!」


 犬井さんがウエストを引っ張る。ゴムが伸びて、ストライプのガラパンが露になった。


「わー! わかったから!」


 ケタケタと笑っている女子陣の前で、俺は浴衣を持って窓際へ逃げ込んだ。広縁と呼ぶには狭いが、着替えるには十分。ふすまの後ろでジャージを脱ぐ。


「ていうか、女子部屋に来てって言ったのはそっちじゃないですか」



 浴衣を羽織りながら、ふすまの向こうへと声を掛けた。


「そうなんだけど」

「私たち、意見が一致しまして」

「みんな、和明くんを待つのはやめたの」


 言葉を受け取ったまま、スマホで調べながら浴衣の帯を締める。


「……お待たせしました」


 いきなり明るいところへ出て、一瞬目が眩んだ。

 右には、柔らかな顔の若葉先輩。

 真ん中は、クールに微笑む星浦。

 左端は、あどけない表情の犬井さん。


「和明くんも似合うじゃん」

「そうですよ! 和な雰囲気が似合います!」

「もともと秋田犬みたいな顔してるもんね」


 わかるー! と3つの顔が弾ける。


「…………」


 しかし、それも束の間。空気が落ち着くと、若葉先輩がひとつ咳払いをした。


「じゃあ、年長者のあたしから」


 俺を見据えて、微笑みながら。


「決めて。誰かを選ぶのか、誰も選ばないのか。あたしたち、どんな決断も受け止めるから」


 犬井さんが口を開く。


「私は、全部欲しいです。雨見さんのこと、全て」


 そして星浦も。

「うちを支えてほしい。うちもあんたのこと、支えたいから」


 最後に先輩。


「君となら、誰かの奥さんっていうコスプレも楽しいだろうな」


 そして、3人とも右手を差し出した。


「……俺は」


 喉がつかえる。

 俺なんかにはもったいないこの3人にできること。それは――


「俺は」


 その時、ローテーブルに置いていた俺のスマホが震えた。存在感を示すように


「……ごめん、宇野さんだ」


 軽く笑って、いや、強引に笑うようにして、俺は部屋を出た。

 ちょうどいい、助かった――そんな風に思う自分がいた。


 俺には、誰かの恋人になる資格なんてない。

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