許せない
メカニカは森の木々をなぎ倒しながらジョルジュ大木に向かっていた。駆けつけたブブカ族の者が止めようとしてもそれを無視して突き進んでいる。その様子からカジコ開拓社はブブカ族の象徴であるジョルジュ大木を倒そうとしていることがわかった。
「止めるのだ! なんとしても木を守れ!」
カドルが叫んだ。ブブカ族の男たちは槍や刀、弓矢までを持ち出し、果敢にメカニカに挑んでいった。だがその周囲はユーラス王国の兵が固めていた。立ち向かうものはすべて叩きのめされて排除されていった。
やがてメカニカの群れはジョルジュ大木の前まで来た。それぞれが発射口を開けてそこから太い鎖の鉤付きワイヤーを木に向かって放った。それは無数に木にしっかりと掛かった。これで準備ができた。これから多数のメカニカで引っ張って倒そうというのだ。
キャラバン隊はエーカーの森に引き返してきた。なんとか止める手はないかと・・・。だがもう遅かった。しかし術者や運び屋たちの中には黙って見ているわけにはいかないと思う者は多かった。
「隊長! 奴ら、あの神聖な木を倒そうとしていますよ!」
「やめさせましょう。我々なら追い返せるはず!」
リーナとトロイカがそう進言するがジャック隊長は首を横に振っていた。横にいたルマンダが代わってその理由を説明した。
「あのカジコ開拓社はユーラス王国が後ろ盾になって動いています。ここで手を出すとユーラス王国に反意を持つと判断されてしまいます。最悪の場合、戦争になります」
それを聞いてリーナもトロイカもそれ以上、何も言えなかった。
ソミオもじっとその様子を見ていた。するとレオが彼を見つけてそばに寄って来た。
「お兄さん! 助けて! 木が・・・木が倒される! お兄さんたちなら奴らを追っ払えるんでしょう!」
レオはソミオにそう言った。
「それが・・・できないんだ・・・」
「どうして! どうしてなんだよう!」
レオは泣き出した。ソミオはレオの肩を抱いて慰めるしかできなかった。
やがてジョルジュ大木はワイヤーを何本も掛けられ、数十台のメカニカに引っ張られた。ギシギシと音を立て木は大きく震えた。まるで泣いているかのように・・・。そして地面に亀裂が走り、やがて盛り上がって根が現れた。なんとか土地にしがみつこうとしているが、次々に引きはがされていく。そして木は傾き始めた・・・。
「ジョルジュ大木が・・・」
「我らの魂が・・・」
「先祖の神よ!」
ブブカ族は皆がひざまずいて祈り、そして泣いていた。自分たちの魂のよりどころである神聖な木が、無残に倒されていくのを目にしなればならないとは・・・。
それはソミオのそばにいるレオも同じだった。ひざまずいて手で地面の土を握りしめながら、
「僕たちの木が・・・うっうっう・・・」
彼もむせび泣いていた。
キャラバン隊は手出しができず、ただ見ているしかない。ジャック隊長はじめ術者や運び屋たちは悔しそうにしていた。
ソミオは拳を握りしめていた。彼は納得いかなかった。この土地に埋まるショウイ鉱石を掘り出すためにブブカ族を追い出そうとし、そして今、ブブカ族の魂というべき神聖なジョルジュ大木を倒そうとしているのを・・・。
がまんができなくなったソミオは走り出し、木の陰に姿を隠した。
「こんなことは許されない・・・ブブカ族のすべてを奪うことが・・・」
ソミオは首飾りを右手で引きちぎった。
「ライティ! 僕は見て見ぬふりをすることができない。ブブカ族がかわいそうだと思うのなら僕に力を貸してくれ!」
するとその首飾りはきらりと光った。ソミオはそれを上に掲げて叫んだ。
「ライティ!」
するとソミオは光に包まれ、その姿を消した。そして同時に空中にライティを出現させた。
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