ジン執行官

 エーカー森から少し離れたカジコ開拓社の現場基地にはメカニカが多数集まっていた。エーカーの森を切り開くために・・・。だがそれがブブカ族によって暗礁に乗り上げていた。未開な部族だから簡単に排除できると思っていたのだが、どう交渉してもここから動こうとしない。だからメカニカで強硬手段に訴えようとした。


 だが今度はロマネスク王国のキャラバン隊が居座ってしまった。無理に進めば戦いになるかもしれず、そうなればどれほどの損害が・・・。しかも外交問題に発展するかもしれない・・・ヨードル社長は頭を悩ませていた。


 するとそこに王宮からの使いが来た。キャラバン隊が現れて妨害していることを王宮の有力者に知らせていたのだ。すぐにヨードル社長は応接間に迎えた。


「これはジン執行官様」

「ヨードル。我が主は怒っておられる。事業が進捗しないのでな」

「しかしロマネスク王国のキャラバン隊が・・・」

「そんなものは問題ない。お前たちは我が国の正式な事業を行っている。よその者が口を出すことはできない。たとえロマネスク王国といっても」

「それでは・・・」

「そんな者たちは無視しろ。内政干渉だと言ってな。そうすれば奴らは手が出せない」


 確かにそれではキャラバン隊は引き下がるかもしれない。だが不安もあった。ブブカ族は野蛮ながら侮れない武力を持つとうわさされていたからだ。


「それでもブブカ族が反抗して来たら・・・」

「大丈夫だ。兵を連れて来た。これで奴らは何もできないはずだ」


 ジン執行官は多くの兵士を連れてきていたのだ。ようやくヨードル社長はほっとできた。


「それなら鬼に金棒。奴らを追い出せましょう」

「すぐにかかるのだ」

「はい。ではまずあの大木を倒しましょう。それを見たら奴らは動揺して戦意をなくすでしょう。それなら手っ取り早く片付くかもしれません。あのにっくき奴らの泣く顔が見られるというもの。ふふふ・・・」


 ヨードル社長は笑いがこみあげてくるのを抑えきれなかった。


 ◇


 やがて朝になり、日が昇って来た。ソミオは目を覚まして起き上がった。朝日にジョルジュ大木が輝いていた。キャラバン隊の他の者はまだ寝ている。そっと起き出してみるとブブカ族がジョルジュ大木に向かって手を合わせて礼拝していた。その光景を見ていると、


「お兄さん!」


 後ろから声をかけられた。振り返ると、それは昨日、踊りを教えてくれた子供だった。


「昨日はありがとう。僕はキャラバン隊の運び屋のソミオ。君は?」

「僕はレオ」

「レオ。いい名前だ。ところでブブカ族はああしてあの木に祈るのだね」

「そうさ。あの木が僕らのよりどころなんだ。ブブカ族の命と言ってもいい。僕らはあの木とともにあるんだ」

「そうか。じゃあ、僕も祈ろう。ブブカ族がいつまでも幸せに暮らせるように・・・」


 ソミオも目を閉じて手を合わせて祈った。するとその大木の声が聞こえてくるように感じた。


(危機が迫っている・・・この地に危機が迫っている・・・助けてくれ・・・)


 ソミオは目を開けてジョルジュ大木を見た。その木は自分の中にいるライティに助けを求めている・・・そんな風に感じた。


「もしかして・・・」


 ソミオは胸騒ぎがしていた。

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