首領カドル

 ジャック隊長のそばにソミオが慌てた様子で走ってきた。


「ソミオ。どうしたんだ?」

「大変です。カーナが勝手にジョルジュ大木を見に行ってしまいました!」

「なに! カーナが!」


 ジャック隊長は驚いた。ブブカ族が大切にしている木に近づいたらどんなことになるか・・・。


「はい。ジークが後を追って行きましたが・・・心配です」

「わかった。隊の指揮はルマンダに任せる。リーナとトロイカは俺と一緒に来てくれ。カーナを連れ戻しに行く」


 ジャック隊長はキャラバン隊から離れてカーナを迎えに行こうとしていた。ソミオもカーナとジークのことが心配だったからこの任務に志願してみた。


「隊長。僕も行かせてください!」

「わかった。一緒に来い!」


 だがジャック隊長たちが向かおうとする前に周囲から男たちが次々に現れた。前にも後ろにも横にも・・・。彼らは腰布だけをつけて体中に刺青を入れており、刀や槍で武装していた。キャラバン隊はブブカ族によってすでに包囲されていたのだ。彼らは敵意をむき出しにして迫ってきた。


「おまえたちは何者だ!」


 ジャック隊長が声を上げた。するとリーダーらしい男が前に出た。


「俺はブブカ族の首領、カドルだ。貴様たちはカジコ開拓社の手の者だな?」


 ジャック隊長は聞いたこともない開拓社の名前を聞いて眉をひそめた。


「カジコ開拓社? いや、そんなものは知らない。我々はロマネスク王国のキャラバン隊だ」

「嘘をつけ! お前たちの仲間はつかまえた。そいつらはジョルジュ大木に近づこうとしていたのだ。あの神聖な木を倒すつもりだったのだろう」

「そんなことはしない。その者たちは興味本位で見に行っただけだ。無礼は謝る。だから仲間を返してこの森を通してほしい」

「だめだ! 信用できない!」

「それなら俺たちをどうするつもりだ?」

「お前たちを拘束する! それ!」


 カドルは仲間に合図した。するとブブカ族の男たちが刀や槍を構えて、さらに接近してきた。それを見てトロイカは剣を抜こうとし、リーナはサンダーを発動しようとしていた。そして他の術者も応戦しようとしていた。


「我々に手を出せば容赦しない!」


 ジャック隊長は毅然とした態度を示した。ブブカ族は接近をやめたが、刀や槍を降ろそうとしない。一発触発の事態となってしまった。しばらくにらみ合いが続いた・・・。しばらくしてこの膠着状態が嫌になったカドルが仲間を手で制して言った。


「ならば集落に来てもらおう。客として・・・。おとなしくしていれば危害は加えない。お前たちがカジコ開拓社の仲間でないとわかるまでだ」

「本当か?」

「ああ、俺たちは嘘が嫌いだ。ただしお前たちが嘘を言っていたり、我らを攻撃するようなら貴様の仲間の男と女を殺す。いいな」


 ジャック隊長はカドルの顔を見た。その目から嘘をついているようには思えなかった。ここで抵抗してブブカ族を排除するのは簡単だが、カーナとジークの身に危険が及ぶことになる。


「隊長。彼らは純朴な民族のはずです。私の計算ではむやみに危害を与えてこないと思われますが・・・」


 横にいるルマンダがそう言った。それを聞いてジャック隊長はうなずいた。


「わかった。お前たちの言うとおりにしよう。だが我々の安全は保障してくれ」

「それはわかっている。きちんと客として迎えよう」


 カドルはそう言った。それでキャラバン隊はブブカ族の集落に向かうことになった。


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