第14話 神聖な木

神々しい木

 キャラバン隊はキュアの町を後にして森林地帯に入っていた。この辺りはエーカーの森と呼ばれ、元々、ユーラス王国一帯に散らばっていた先住民が、今はここに集まって暮らしている。彼らはよそ者に攻撃的で非常に危険な部族と言われていた。


「ここは危険な場所だ。皆、注意しろ! この森を抜ければユーラス王国の中心都市はすぐそこだ」


 ジャック隊長が声をかけた。


「危険というのはどういうことかな?」


 ゲオルテ大使が尋ねた。


「ここには先住民のブカカ族がいます。かなり好戦的と聞いています。ユーラス王国も彼らの待遇に手を焼いているようです」

「ほう。そんな奴らがのさばっているのか。あいつは何をやっているのか・・・」


 ゲオルテ大使がため息をついた。


「どうかされたのですか?」

「この国の重臣、エドモン公爵は私の古い友人でな。会ったら厳しくいってやらねば・・・」


 ゲオルテ大使はそう言ったものの、その再会を楽しみにしているようだった。


 やがてキャラバン隊の前に巨大な気が見えてきた。それは100mにもなろうとする高さで、その上の部分にだけ太い幹が分かれてたくさんの葉が茂っていた。その存在感は神々しく感じられた。


「あれがうわさに聞くジョルジュ大木か・・・」


 ゲオルテ大使は大きな感銘を受けてそうつぶやいた。それはジャック隊長も同じだった。


「そうですね。初めて見ました。これほど大きいものとは・・・」

「この木は神聖な精霊が宿ると言われておる。ブカカ族の信仰の対象になっていると聞いたことがある」

「そうですか。それなら皆にあの木に近づかないようにさせないと。ブカカ族を刺激しないために」



 だがキャラバン隊の中にはその木をそばで見ようとした者がいた。それはあのカーナだった。


「素晴らしい木だわ。ぞくぞくする。ちょっと見に行きましょう!」

「お嬢さん。だめですよ。勝手に隊を離れたら・・・」


 ジークが止めようとした。


「ちょっとだけならいいじゃない! はぐれないようにするから」


 カーナはそう言って乗っていたラクダをジョルジュ大木の方に走らせた。


「ちょっと待ってください!」


 ジークが止めようと大声を上げたがカーナの耳には届いていなかった。


「仕方がないな。ソミオ。心配だから俺が行ってくる。凶悪なブカカ族と遭遇したら大変だからな」

「わかった。一応、隊長さんに知らせておくよ」


 ジークはカーナを追いかけて行った。それを見送るソミオはなぜか胸騒ぎがしていた。



 カーナはジョルジュ大木のそばに来た。近くで見るとまるで巨大な塔だ。太い幹に様々な飾りが付けられている。この木がブカカ族の信仰の対象になっているのはよくわかった。


「すばらしいわ・・・」


 カーナは感嘆の声を上げた。


「こりゃ、すごいぜ・・・」


 ジークはカーナを連れ戻しに来たが、その役目も忘れてその木を見入っていた。だが彼らの背後で密かに人が集まり、2人を包囲していた。そしてその中のリーダーらしい男がいきなり2人に後ろから大声を浴びせた。


「おい! お前たち! ここで何をしている!」


 驚いてカーナとジークが振り返った。すると剣や弓を構えたブカカ族が取り囲んでいた。彼らは体中に彫り物を入れ、硬い木の実で編んだ鎧を着ている。今にも襲ってきそうな勢いだった。


「お、俺らはこの木を見に来ただけだ・・・」


 ジークは恐怖で震えながらも答えた。カーナは声すらも出せない。


「お前たちはカジコ開拓社のものだな!」

「ち、違う! お、俺たちはロマネスク王国のキャラバン隊のものだ」

「嘘をつけ! この木を倒しに来たのだろう! そんなことはさせない! それ!」


 ブブカ族の男たちが2人に向かってきた。


「やめろ!」


 ジークは念動力でそのうちの何人かを跳ね飛ばしたが、次々に周囲からつかまれて縄で縛られてしまった。抵抗しないカーナも同じく縄で縛られた。


「助けてくれ!」


 ジークは叫んだ。だがキャラバン隊までは届きそうにない。2人はそのまま連れていかれた。

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