戦いの後

【キャラバン日誌 ロマネスク歴2068.0119 隊長ジャック記録。野盗によりオイゲンが操られ、オオラットーの大群の襲撃を受けることになった。すぐに結界を張ったものの、突如現れた召喚獣に穴を開けられ、キャラバン隊は危機を迎えた。だがライティが現れ、彼が召喚獣と戦っている間にルマンダとジークがオイゲンを元に戻した。それでオオラットーを追い払い、召喚獣との戦いで危機に陥っているライティを援護することができた・・・】


 

 オイゲンは憔悴した様子でジャック隊長の前に来た。意識がなかったにせよ、自分がしたことに深く反省していた。


「すべてお話しします。おらは昔、あいつらの仲間だった。野盗の一味だったんです。その頃のおらは荒れていた。何も信じられず、暴力を振るってばかりいた。そんなことをしているうちについに捕らえられて、死ぬまで森の木にずっと縛り付けるという刑を受けました・・・」


 オイゲンは自分の過去を話していた。


「森でこのまま死ぬのだろうと思っていました。しかしなぜかこんなおらを森の動物たちは助けてくれた。その優しさに触れて、動物たちの心を知りたいと思った。それからその言葉がわかるようになったんだ」

「その後も野盗どもはまたお前を仲間に引き込もうとしたのだな」

「へい。おらは服従魔法をかけられていた。奴らの仲間になってから・・・。でももう野盗は懲り懲りだと逃げだしたんだ。でもこんなところで見つかって・・・」


 オイゲンの目から涙が流れた。


「おらはとんでもないことをしてしまっただ。死刑にされても文句は言えねえ。だけどおらはこのキャラバン隊が好きだ。ラクダどもが好きだ・・・うっうっう・・・」


 すすり泣くオイゲンの方をジャック隊長が優しく叩いた。


「オイゲン。お前が悪いわけじゃない。お前は今でもキャラバン隊の一員だ。これからもだ」

「ええっ! それじゃ・・・」

「そうだ。お前はこのキャラバン隊になくてはならない運び屋だ。これからも頼むぞ」

「ありがてえ! ラクダたちに言ってくる。心配していたから・・・」


 オイゲンはテントを出て行った。横にいるルマンダがジャック隊長に言った。


「オイゲンは不問に付すのですね」

「ああ。服従魔法は解けたし、動物を操るスキルは必要だ。それにオイゲンはこのキャラバン隊を愛している。それだけで十分だろう」


 ジャック隊長はそう言いながら見回るためにテントを出て行った。



 オイゲンはラクダの世話をしていた。それをニコやジークたちが手伝っていた。オイゲンば何か言うとラクダが動く。それはまるでラクダと言葉を交わしているかのようだった。そこにカーラはやって来た。すると1頭のラクダがオイゲンの耳に何やらささやいた。


「どうかしたの?」


 カーナがそう尋ねるとオイゲンが答えた。


「『このお嬢さんがお手伝いしたいようです』と言ったよ」

「そうよ。有難く思いなさい。でもよくわかるのね」


 すると別のラクダがまたオイゲンの耳にささやいた。


「今度は何と言っているの?」

「ええと・・・『ここはお嬢さんのような方にはもったいない』って言っているよ」

「そんなこと・・・いいのよ」


 カーナがそう答えるとまた別のラクダがオイゲンの耳にささやいた。


「今度は何て?」

「『ゲオルテ大使がお手伝いしてくださる方を探しています。教養のある方に』って」

「あら、そう。仕方がないわね。じゃあ、残念だけどそっちに行くわ」


 カーナはうれしそうに宿所の方に歩いて行った。その光景を見てジークは目を丸くした。ラクダがそんなことを言うとは・・・。


「オイゲン。お前、頭が回るな」

「何がです?」

「カーナにうまいこと言ったじゃないか。ここにいられたら邪魔だからな。ラクダが言ったことにしてゲオルテ大使に押し付けて」


 それを聞いてオイゲンは首を横に振った。そばにいたニコが笑いながら言った。


「まあ、いいじゃないですか。ゲオルテ大使も助かるし、僕らも助かる。オイゲンさんがそんなに気が利くとは思いませんでしたよ」

「まあ、これからも頼むよ」


 ジークとニコはエサを取りに向こうに行った。残されたオイゲンはつぶやいた。


「本当にラクダたちはそう言ったのにな。お前たちの方がおらより気が利くもんな」


 するとラクダたちはそうだと言わんばかりに、


「ヒーン!」


 と鳴いた。



 準備が完了してキャラバン隊はキュアの町を発った。目指すはユーラス王国の王都リザドだ。だがその様子を遠くからネクロマンサーの幹部オベールがじっと見つめていた。


「このままで済むと思うな・・・」


 オベールはニヤリと笑ってその姿を消した。

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