オオラットー

 夜になって宿営地の周りは静まり返りっていた。キャラバン隊はいよいよ明日、出発となった。警備の者を除いて隊の者たちはすべてぐっすりと寝ていた。もちろんオイゲンも眠りに落ちていた。だが急に目を開けてすっくと立ちあがった。そして外に歩き出した。彼の目はうつろだった。そばにいたジークは寝込んでいて全く気付かなかった。

 オイゲンは宿営地の外に行こうとしていた。だがそこを警備の者に見つかった。


「おい! どこに行く! あっ! オイゲンじゃないか!」


 警備をしていたのは2人の運び屋だった。彼らは松明でオイゲンを確認した。


「ちょっと来い!」


 最近、挙動がおかしいと伝えられていたので、2人はオイゲンを拘束しようとその腕を両側から取った。するとオイゲンは乱暴にそれを振り払った。それは人間業とは思えないほどのものすごい力だった。そして2人をぶん殴り気絶させた。その後、オイゲンは何事もなかったかのようにまた歩き始めた。



 宿営地ではソミオも眠りに落ちていたが、異変を感じて急に目覚めた。起き上がって外を見るとオイゲンが外を歩いている。


「また、オイゲンが・・・。追いかけなくちゃ」


 ソミオはすぐに外に出てオイゲンを追って行った。



 オイゲンはしばらく歩き、広場の方に行った。するとそこにズルカたち野盗が待ち構えていた。


「ふふふ。俺の服従魔法はこんなものだ。寝ていても操れる」


 ズルカは笑いながらオイゲンに命じた。


「オオラットーがこの辺りにいるはずだ。ここに集めろ!」

「○!※□◇#△!」


 うつろな目をしたオイゲンは何かを叫んだ。するとあちこちからオオラットーが集まって来た。狼ほどもある大きさの鋭い歯を持つ獣であり、普段はこのような町に群生することはない。


「さすがはブロン様だ。オオラットーをこんなに集めてくださった。これならキャラバン隊もいちころだ」「


 ズルカは感心しながらオイゲンに命じた。


「凶暴なオオラットーの群れをキャラバン隊に向かわせろ! すべてを破壊し続けるのだ!」

「※□◇#△!○!&!」


 オイゲンは再び叫んだ。するとオオラットーの群れはオイゲンと野盗とともにキャラバン隊に向かった。



 それを見ていたソミオは驚いた。術者であればオオラットーの1匹ぐらいなんとでもなるが、あれほどの数になると・・・キャラバン隊の術者が総出で対処しても間に合わない。あのオオラットーの群れに襲われればひとたまりもないだろう。


「キャラバン隊が危ない! みんなに早く知らせないと」


 幸い、その進むスピードはオイゲンの歩くそれと同じだ。急いで帰って知らせれば十分防ぎきれる・・・ソミオはそう判断した。だが後ろから獣の群れが迫ってきているのが感じられる。彼は宿営地に走って帰った。



 オオラットーの群れを遠くから見ている者がいた。それはブロンだった。


「うむ。思った通りだ。キャラバン隊に紛れ込ませた者の報告通り、獣を自在に扱うわい! キャラバン隊は寝ているうちに壊滅というわけだ。はっはっは」


 ブロンは大いに笑っていた。勝利を確信して・・・。彼の魔法ではこの辺りのオオラットーを呼び寄せることはできた。だがキャラバン隊を襲うとなれば話は別だ。この獣を完全に操る必要がある。


「さて高みの見物と行くか」


 ブロンは宿営地の方に向かった。

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