手引き

 野盗の男たちはアジトにしている廃墟に戻って来た。そこに別の男が待っていた。黒ずくめの服装の男・・・それは秘密結社ネクロマンサーのオベールの手の者の様だった。お頭や男たちはその男を見て跪いて頭を下げた。


「これはブロン様。どうしてこちらに?」

「ズルカよ。キャラバン隊壊滅の作戦はできたか?」

「はっ。それはもう。隊の中に昔の仲間が混じっておりました。奴には強制服従魔法がかかっております。こちらの思うがままです。」

「ならばよい。この作戦が成功したら、オベール様がお前たちを正式なネクロマンサーの一員にしてくださる。しっかりと励がよい」

「はっ。吉報を待ちください」


 お頭のズルカが頭を上げた時、すでにブロンの姿はなかった。


「さすがはブロン様。神出鬼没よ。まずはお宝をいただいてから火でもつけるか。我らがただの野盗から抜け出すのはあと少しだ。へっへっへ・・・」


 ズルカはこみあげてくる笑いを抑えきれなかった。


 ◇


 次の日の夜、オイゲンはまた寝床を抜け出して外に出た。誰もつけて来ないか、前回よりもかなり警戒していたが、ジークとソミオは密かにつけていた。


(オイゲンはまた抜け出すはず・・・)


 2人はそう思っていたのだ。そしてその後にはトロイカとハンカも続いていた。荒くれ男たちが関わっているようなので、もしかの時には腕を振るってもらうために頼んだのだ。

 オイゲンが宿営地を出ると、そこにはズルカと男たちが待っていた。


「よく来た。オイゲン。お前にはやってもらいたいことがある。」

「おらはもうやめたんだ!」

「そんなことが通用すると思っているのか? お前は我らともにこのキャラバン隊を襲うのだ!」

「ひぇ! そんなこと!」

「何を言っている? 乱暴自慢のオイゲンさんよ!」

「そんな呼び方をするな!」


 オイゲンの目が鋭くなった。


「おっ! いいぜ! その目だ。少しは昔のお前らしくなったぜ!」

「馬鹿にするな!」


 オイゲンの声も低く、ドスの利いた声になってきた。


「もし嫌だと言ったらあの手がある。それを使えば簡単だけどもな。だが昔のよしみでそんなことはしたくない」


 ズルカのその言葉にオイゲンは何も言えなかった。


「じゃあ、決まりだ。俺たちを手引きしろ! なあに。ちょっと荷物をいただくだけだ。誰にも危害を加えねえ。それならいいだろ。それで俺たちは消える」

「本当か?」

「本当だとも。それでお前は何事もなく仲間と旅を続けられる。言い取引だろ。ヒヒヒ・・・」


 ズルカはいやらしく笑った。オイゲンはため息をつくとキャラバン隊の宿営地に向かった。ズルカたちの脅迫に屈したようだった。彼は警備の目を潜り抜け、荷物を集積しているテントに近づいた。その後にズルカたちが続いている。


「そこまでだ!」


 オイゲンとズルカたちはいきなり明かりを浴びせられた。「うっ!」とまぶしさをこらえて見てみると、そこにはソミオとジークとハンカ、そして剣士のトロイカがいた。


「野盗だな! このキャラバン隊に忍び込むとはいい度胸だ!」

「あたいが叩きのめしてやるよ! かかって来な!」


 トロイカが剣を抜き、ハンカがイエム武術の構えを取った。その後ろでジークとソミオが棍棒をもってひかえている。それを見てズルカがあわてて叫んだ。


「まずい! 逃げろ!」


 野盗たちは逃げ出した。


「待て!」


 ハンカやトロイカが追いかけた。だが野盗は逃げ足だけは誰よりは速い。残念ながら取り逃がしてしまった。

 一方、オイゲンはその場にぽつりと取り残されて悲しそうな顔をしていた。


「オイゲン! どうしてこんなことをしたんだ?」


 ジークがそばに寄って声をかけた。


「す、すまねえ・・・。おらは・・・おらは・・・うううっ・・・」


 オイゲンはその場に座り込んで泣き始めた。

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