呼び出し
夜を迎えた。その日は満月が出ていて外は明るかった。町で飲んできた者もあったが、夜更けにはほとんどの者は寝床についていた。辺りは静まり返っていた。そこに、
「ヒューイ!」
という鳥の鳴き声のような音が聞こえた。それを聞いてオイゲンはまるで魔法にかかったかのように起き上がった。そして誰にも気づかれないように足音を忍ばせて外に出て行った。
それにソミオは気づいた。昼間の様子のことをジークとカーナから聞いていた。それで気を付けていたのだ。やはりオイゲンの様子がおかしいのは明らかだった。
(どこに行くんだ?)
ソミオは起き上がって部屋から出ようとした。するとジークも起き上がっていた。
「どうした?」
「オイゲンの様子がおかしいんだ。外に出て行った」
「やはり、そうか・・・。心配だ。見に行こう」
2人はそっとオイゲンの後をつけた。
オイゲンは誰にも見つからないように辺りを見渡しながらそっと宿営地の外に出た。すると、
「ヒューイ!」
という音が何度も聞こえてきた。誰かが吹いている指笛のようだ。オイゲンはその音のする方に向かって歩いた。
するとある建物の陰に数人の男たちが集まっていた。それはあの野盗の荒くれ男たちだった。彼らがオイゲンを誘い出したのだ。
「オイゲン。こっちだ!」
お頭に呼ばれてオイゲンがそばに来た。
「久しぶりだな。オイゲン。」
「お頭。もうおらと関わらねえで下せえ。お願いだ。」
オイゲンは頭を下げた。
「そうはいくか。お前は勝手に姿をくらましやがって!」
「そのことなら謝ります。おらはもう昔のおらじゃないんだ。」
オイゲンは膝をついて土下座した。だがお頭は許そうとはしない。
「そんなことをしてもだめだ。もうお前は俺たちの組織を抜け出せないのだ。」
その言葉にオイゲンは顔を上げられなかった。
ソミオとジークはオイゲンの後をつけてきていた。そこで2人は、遠くの建物の陰でオイゲンが数人の荒くれ男たちに土下座しているのを目撃した。ソミオは事情を知るためもう少し様子を見たかったが、ジークはオイゲンが危機に陥っているように見えたのだ。
「オイゲンが絡まれている。助けに行こう!」
ジークはすぐにそこに駆けて行った。仕方なくソミオはその後に続いた。
「オイゲン! 大丈夫か!」
男たちはジークの姿を見て「まずい」と思ったのか、すぐにそこから姿を消した。その去り際、お頭はオイゲンに言った。
「明日の夜更け、宿営地の前に出てこい! いいな!」
オイゲンはうなずいた。そしてすぐにジークとソミオがオイゲンのそばに来た。
「オイゲン! 大丈夫か? 何があったんだ?」
ジークが尋ねた。
「おら、おら・・・」
オイゲンはどう言い繕えばいいかわからず、それだけしか言えなかった。その様子はジークには臆病なオイゲンが恐怖のあまり、しゃべれなくなっているように思えた。
「わかった。わかった。怖かったのだろう。宿営所に帰ろう。もう大丈夫だ」
ジークはオイゲンを抱えるようにしてきた道を戻った。その後ろを歩くソミオは何か嫌な予感を覚えていた。
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