男の影

【キャラバン日誌 ロマネスク歴2068.0116 隊長ジャック記録。キュアの町に到着した。ここでは食料、水の補充だけですぐに出発になる。幸い敵の妨害もなく、滞りなく次に進めそうだ・・・】


 宿営地では運び屋たちが荷物運びに大忙しだった。ただでさえ日程は遅れている。早く準備をしてここを速やかに出なくてはならない。

 手持無沙汰なカーナも手伝おうとするが小さな荷物も持てず、邪魔になるばかり・・・。ついには


「しっかりしなさいよ!」


 カーナが運び屋たちに声をかけるだけになった。だがそれだけでも運び屋たちはうっとうしく感じていた。それはソミオも同じだった。ジークがラクダを世話するオイゲンを手伝いに行って人手がただでさえも少ない時である。これ以上、作業に支障がないようにしたいのだが、


「カーナ。ちょっとよそに行ってくれないか」


 などと言おうものなら彼女から何と言われるか・・・。だからソミオはこう言った。


「カーナ。ラクダの世話が大変らしいから見てきてくれないか。君ならラクダも言うことを聞くと思うから」

「そうね。そうするわ。私がいなくなっても一生懸命にやるのよ!」


 運び屋の仕事の監督(?)に飽きていたカーナはラクダのところに向かった。それを見て運び屋たちはほっとして作業を続けた。



 ラクダのところではオイゲンやジークやニコ、他にも数人の運び屋が世話をしてした。カーナは少し離れたところから彼らの働きを見ていた。エサや水を与え、糞の処理をして、ブラッシングをしてやる・・・ラクダの世話もなかなか大変な様だった。


 オイゲンは機嫌よくラクダに声をかけて水やえさをやったりしていた。ラクダたちは自分勝手に動き回っているが、彼の言うことなら聞くようだ・・・カーナはそう思った。


 だが急にオイゲンの動きが止まった。遠くの方をじっと見ている。その顔には驚きの表情が浮かび、何かにおびえているようだ。カーナはオイゲンが顔を向けていた方向を見た。そこには一人の男の姿があった。その男はさっとそこから姿を消したが、彼女には何か邪悪な気配を感じた。


(怪しげだわ。敵かもしれない・・・。オイゲンに何か良くないことが起こるような気がする・・・)



 急にオイゲンの様子がおかしくなったのをそばにいたジークも気づいた。


「オイゲン。どうした? 何かあるのか?」


 ジークはそう声をかけた。


「いや、なんでもない・・・なんでもない・・・」


 オイゲンは首を横に何度も振って、また水を運び始めた。


「おかしな奴だ」


 それきりになったが、ジークはそのことが気にかかっていた。


(いつもと同じように働いているが・・・何か隠しごとでもあるのか・・・)


 ジークは働いているオイゲンをじっと見ていた。


 ◇


 オイゲンを遠くから見ていた男は町はずれの廃墟に入った。そこは誰も寄り付かない場所であった。そこに数人の男たちが集まっていた。いずれも無精ひげで人相の良くない、荒くれた男たちだった。


「お頭の言う通り、やはりオイゲンでしたぜ」

「そうだろう。レンジ。キャラバン隊の中にいるのを見たんだ。奴はどうしている?」

「奴は運び屋のようで、キャラバン隊の宿営地で荷物を運んでいましたぜ」

「そうか。それなら都合がいい!」


 お頭と呼ばれた男はニヤリと笑った。すると別の男がお頭に聞いた。


「やるのですかい?」

「当り前だ。獲物を前に指をくわえていることはないだろう」


 彼らは野盗だった。この町に来たキャラバン隊に目をつけていた。それにオイゲンが加わっていたことを知って・・・。


「お頭。オイゲンをどうしようっていうのですかい?」

「ふふふ。手伝ってもらうのさ。昔に戻ってな」

「言うことを聞くでしょうか?」

「なあに、奴のことはわかっている。これは面白いことになる。早速、今夜だ」


 お頭がそう言うと、男たちは大きくうなずいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る