ソミオへの思い

 カーナはその様子をすべて見ていた。ゴーレムを操っていた塔の上の男は、ダルレの投げ槍で倒された。それとともにライティを苦しめていたゴーレムは、その姿を崩して土に還った。ライティは消滅する危機を免れて空高く飛んでいった。その姿は前にもまして力強くて凛々しく見えた。


「よかった。ライティ様」


 彼女はライティが飛び去った後もうっとりとその空を見上げていた。彼女は自分がライティを救ったことに大きな誇りを持っていた。

 だがしばらくして急にあることを思い出した。自分を助けようとおとりになったソミオのことを・・・。彼はゴーレムに追われて踏み潰されたのかもしれない。


「私のために・・・」


 彼女は大通りに駆けて行った。ソミオを探すために・・・。自分を助けるためにソミオが犠牲になったとは思いたくないのだ。


「生きているのよ! 死ぬのは許さないわ!」


 カーナはつぶやいていた。(死ぬはずがない)とソミオが生きている可能性を信じて・・・。そこにはゴーレムの巨大な足跡がいくつも残されていた。


「ソミオ! どこ? どこなの? ソミオ!」


 カーナは叫びながら必死に探した。どこかに倒れていないか・・・。だがソミオは見つからなかった。踏み潰されてぐちゃぐちゃになったのかもしれない・・・彼女には絶望的に思われた。


「やはり、私のために・・・私にために・・・」


 カーナの目から涙がこぼれた。崩れるように膝を折り、その場にしゃがみこんだ。彼女の脳裏には勇敢で優しいソミオの姿が浮かんでいた。もうあの優しい笑顔を見ることができないと思うと・・・カーナを悲しみが襲い、その心にぽっかり穴が開いた気分になった。


「ソミオ・・・ソミオ・・・」


 カーナはそう呟いていた。すると後ろから声をかけられた。


「カーナさん。無事でしたか?」


 振り返るとそこにソミオが立っていた。彼はにこやかに微笑んでいた。カーナは一瞬、夢でも見ているのではないかと思った。だがそれは現実だった。そして彼女は徐々に大きな喜びに包まれ、彼に笑顔を返した。


「生きていたのね!」


 カーナはソミオに抱きつきたいような気分になっていた。


「心配かけましたか? 僕は大丈夫ですよ」


 ソミオがわざとそういう言い方をした。すると急にカーナは彼が憎らしくなった。こんなに心配していたのに、何もないような顔をして出て来るなんて・・・カーナはさっと涙を拭いて言った。


「心配なんか、してないわよ」

「えっ?」

「あなたなんか、心配するわけがないわ! 私はライティ様に会いに来たのよ。言葉をかけることはできなかったけど、まあ、いいわ。さあ、帰るわよ!」

「え、ええ・・・」


 カーナはプイッと向き直ると来た道を早足で歩き出した。


「ちょっと、待ってくださーい!」


 その後をソミオが首をかしげながら追いかけて行った。


「なんか、嫌われたみたいだな・・・」


 と思いながら・・・。だがカーナは後ろから追いかけてくるソミオの足跡を聞きながら、うれしさでいっぱいになっていた。

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