カーナの願い

【キャラバン日誌 ロマネスク歴2068.0112 隊長ジャック記録。キャラバン隊が滞在するラオンの町が召喚獣ゴーレムによって襲われた。またライティが現れ、ゴーレムを追い払ってくれた。だが破壊された町の被害は相当なものだった。・・・ゴーレムはまた襲ってくるだろう・・・】


 ラオンの町の被害は大きかった。しかしこの地にはアメリア商会があった。手広く商売して底知れぬ財力を持ち、その当主のバード子爵は篤志家でもあった。被害を受けたキャラバン隊の装備の補充もバード氏の援助を受けていた。彼がこの町の復興に力を貸してくれるに違いない。

 その一人娘がカーナだ。彼女はあれ以来、キャラバン隊に入りびたりだった。あちらこちらに顔を出し、茶々を入れていた。だが相手は世話になったバード子爵の令嬢、無下にするわけにもいかなかった。

 

 その日、ジークとソミオは荷物を運んでいた。そこにカーナが現れた。


「何を運んでいるの?」

「食料ですよ。お嬢さん」


 ジークが答えた。ソミオはその後ろで麻袋を担いでいる。


「そうなの? 私にも持たせて」

「止めた方がいいですよ。重いですよ」

「そんなことはないわ。私は力持ちなのよ」


 カーナはソミオが肩に担いだ麻袋を奪って担ごうとした。だが案の定、カーナに持てるはずはなく。その場に座り込んでしまった。


「ね、言ったでしょう。さあ、返してください」

「あなた、今、馬鹿にしたでしょう」

「そんなことは・・・」

「いい? 私がここにいてあげるだけでもありがたいと思いなさい!」


 カーナはそう高飛車に言った。ジークは、


(相手はバード子爵の一人娘だ。なんとか機嫌を直してもらおう。でもどうしてキャラバン隊に来るんだ?)


 と疑問に思っていた。それで下手に出て聞いてみることにした。


「お嬢様。このキャラバン隊にいらしていただいて我々は光栄に思っています。しかしなぜお嬢様の様なお方がこんなところにいらっしゃるのですか?」

「教えて欲しい?」

「ぜひとも。我々のような者では聡明なお嬢様の考えがわかりませんから」

「それなら教えてあげる」


 カーナはもったいぶりながら話し始めた。


「私がこのキャラバン隊に来るのは、ここに来ればあの方が現れるような気がしたからです。私はあの方にお会いしたいのです」

「あの方?」

「ライティ様です。私を召喚獣から救っていただいた・・・」


 それを聞いてソミオは「えっ!」と言う顔をした。


「驚くことじゃないでしょ。あの方は優しく私を包んでくださった。それでわかったのです。あの方が私と結ばれる運命の方だと」


 カーナは頬を赤らめながら言った。ジークの方は半ば呆れながらもそれを隠してこう言った。


「しかしお嬢様。相手は巨人ですよ」

「いいえ。愛の力はすべてを超えるわ。私のこの気持ちをあの方にお伝えしなければならないのです」

「そう言われても・・・ちょっと僕には・・・」


 ソミオは自分に告白されたような気がして、うっかりそう言ってしまった。それを聞いて、カーナは眉間にしわを寄せながら言った。


「あなたじゃないのよ。何を勘違いしているの。あなたなんか私が好きになるはずがないでしょう!」

「え、ええ。確かにそうです・・・」


 ソミオはカーナの迫力に押されていた。


「聞いたところによるとキャラバン隊にピンチにあの方が現れるそうじゃないの。多分、またゴーレムが現れれば会えるのよ。早くゴーレムよ。出てこい!」


 カーナは空に向かって声を上げていた。その様子をジークもソミオもあきれた様に見ていた。

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