第12話 子爵令嬢の恋

令嬢カーナ

 ここはラオンの町。キャラバン隊が到着するや否や、また召喚獣ゴーレムに襲われていた。それは土で固められた巨人だった。その怪力で町の石造りの建物を手あたり次第、破壊していった。町は人々の叫び声で騒然としていた。


「ルマンダ! 皆を避難させろ!」


 ジャック隊長が叫んだ。術者たちがゴーレムを攻撃していたが、その動きを止めることができない。建物から逃げ遅れた町の人に被害が及んでいる。ルマンダはジークやソミオたち運び屋を連れて人々の助けに走った。

 辺りは火事の煙と建物の崩壊による砂煙で視界が悪かった。だが人々の悲鳴は方々から聞こえていた。


「しっかりしてください!」


 ジークがと身なりのいい中年の紳士を助け起こした。彼は足を負傷している。安全なところに連れていこうとしたが、彼はジークをつかんで訴えた。


「私はバード子爵だ。頼む! 向こうの建物に娘のカーラがいるのだ。どうか助けてくれ!」


 見るとそれはゴーレムによって壊されている建物である。崩壊してしまうのも時間の問題だった。もう助けに行くのは無理だと思われた。だがそれを聞いていたソミオが


「僕が助けに行く!」


 と建物に向かって走っていった。ジークは止めようとして、


「ソミオ! あっちは危険だ!」


 とあわてて声を上げたが、その言葉はソミオの耳には届かなかった。


 ソミオは砂煙の中を潜り抜け、ゴーレムに襲われて壊れかけた建物に入った。その建物はアメリア商会の持ち物だった。3階建ての石造りの立派なもので、そこに主人のバード子爵の一人娘のカーナが住んでいた。彼女は召喚獣が町に現れたと聞いて、ミーシャというペットの猫を連れて逃げようとした。


「どこ? どこなの? ミーシャ!」


 いつもなら出てくるはずのミーシャはどこに行ったのか、全く見つからなかった。召使たちは召喚獣と聞いて一目散に逃げてしまった。彼女だけがこの建物の3階に残されたのだ。

 そのうちに建物が大きく震えた。


「なに?」


 カーナは窓の外を見た。するとそこから巨大な土の塊のゴーレムの姿があった。すでにカーナのいる建物に手をかけて破壊しようとしていた。


「に、逃げなくちゃ・・・」


 だが建物は大きく震えてカーナは転倒した。足をはさまれてしまったようでもう立つこともできない。


「誰か! 誰か、助けて!」


 カーナは大声を上げた。その時、ソミオがその階下に飛び込んできた。


「今、助けに行きます!」

「3階よ。動けないの。足をはさまれて・・・」


 それを聞いてソミオは階段を上がって行こうとした。だがまた建物が大きく震え、ソミオの上に天井が落ちてきた。


「うわー!」


 ソミオはとっさに首飾りを右手で引きちぎって上に掲げた。


「ライティ!」


 するとソミオが光りに包まれて消え、上空に光に包まれたライティを出現させた。

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