ソミオ変身

 その時、周囲がにわかに騒然とした。オルトロスが宿営地を踏み荒らしてきたのである。ジャック隊長たちが防ぎきれなかったのだ。


「みんな! 逃げろ!」


 ジャック隊長の声が響き渡った。だが咬まれた者たちは狼人の呪いが解けたとはいえ、体が完全に回復したわけではない。助けを借りて何とか立ち上がって歩けるほどだ。テームズやハンカたち運び屋がなんとか抱えて数人を連れて行ったが、そこにはジークとソミオを含め3人の病人が残されていた。起き上がれないソミオを抱えてしまったら、他の2人はそこに残していくしかない。しかしジークはソミオを助けたかった。


「ソミオ。さあ、いくぞ!」


 ジークはソミオを助けようと手をのばした。しかし半ば意識を取り戻していたソミオはそれを拒んだ。


「僕はいい。他の2人を運んで行ってくれ・・・」

「しかしソミオ、お前は・・・」

「いいんだ。それよりも・・・」


 オルトロスは迫っている。考えている余裕はなかった。


「すまない。ソミオ!」


 ジークは2人の病人を抱えてそこから逃れていった。残されたソミオは苦痛にさいなまれながらなんとか立ち上がった。もう近くまでオルトロスが迫っている。


「ライティ。僕に力を貸してくれ!」


 ソミオはそう呟くと、右手で首飾りを引きちぎり上に掲げた。


「ライティ!」


 するとソミオの姿は光に包まれて消えた。そしてすぐにそこにオルトロスが足を踏み入れた。宿営地のテントを破壊して回っていた。


 それを振り返ったジークが見た。宿営地のその惨状に思わず声が出た。


「ソミオ・・・ソミオが・・・」


 そこに残ったソミオは絶望的だ・・・彼はそう思わざるを得なかった。



 宿営地の上空が光り、そこにライティが出現した。一回転して地面に着地したがその様子はおかしかった。まだダメージを引きずっているようで足腰がふらついていた。そこに容赦なくオルトロスが襲い掛かった。

 ライティはオルトロスの突進に避けることもできず、その直撃を受けて吹っ飛んでしまった。そして地面に叩きつけられ砂煙が舞った。そのダメージですぐに立ち上がることはできない。

 オルトロスは間髪入れず、ライティに向かってきた。またも体当たりを受けてライティは地面を転がった。ダメージの蓄積に額の炎が揺らぎ始めた。このままではライティは消滅してしまう・・・。


 そのころになってやっと術者たちは回復して、一人で歩けるようになっていた。まだ本調子ではないが何とか戦える。彼らはジャック隊長のそばに行った。ジャック隊長やジュールも戦いで傷を負っていたが、まだ戦うことができた。術者たちが声を上げた。


「隊長、何とかやれます!」

「よし! ライティを援護するんだ! リーナとジュールとルマンダは協力して拘束魔法をオルトロスにかけろ! 他の者はそれぞれの技で攻撃!」

「はい!」


 ジャック隊長たちがオルトロスに向かっていく。それぞれが剣を振るい、矢を放ち、投げやりを放った。オルトロスはその連続攻撃を受けていたが、大きなダメージを与えるまでに至らない。だがその間にリーナたちが強力な拘束魔法の網を張っていた。


「・・・・チェーン!」


 それが放たれるとオルトロスの動きは止まった。だがオルトロスの動きは激しく、それはすぐに破られそうになっていた。リーナたちは必死に踏ん張っていた。

 ライティは大きなダメージを負っていたが、何とか立ち上がった。そして腕を大きくぐっと広げて全身を輝かせた。それは全身に回る毒を浄化させた。それでライティは完全に狼人の呪いから解放されたのだ。額の炎は揺らいでいたが体の動きは元に戻った

 オルトロスはそこでやっと拘束魔法から逃れた。ライティが再び立ち上がったのを見てまた襲い掛かった。ライティはそれをかわすと、後ろから蹴り上げた。それで尻尾の蛇がつぶれた。それで


「グオーン!」


 オルトロスが悲鳴のような声を上げた。ライティはすぐにジャンプして空中で回転した。そして一方の頭にキックを食らわせてその頭をつぶした。オルトロスはまたも、


「グオーン!」


 と声を上げた。後はもう片目のつぶれた頭しか残っていない。ライティは額にエネルギーを集めた。


「クラッシュストライク!」


 その光線はオルトロスをとらえ、燃え上がらせていった。やがてそれは消滅した。その後には一人の遺体が残された。それはロイアンだった。

 ライティはそれを見てため息をつくように頭を下げた。そしてまた空に向かって飛んでいき、その姿は消えていった。

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