届けられた秘薬
【キャラバン日誌 ロマネスク歴2068.0107 隊長ジャック記録。狼人に咬まれた者たちの呪いの症状はさらに進行している。これを止めるにはゲオルテ大使たちがハゲン村から持ってくる秘薬しかない。だがいまだに帰ってこない。このままではあと半日で狼人になってしまうだろう。そうなるともう手が付けられない。隊長としてその前に決着をつけねばならない・・・】
ジャック隊長はテントの中で腕組みをして待ち続けた。かなりの者が狼人に咬まれてしまった。もし秘薬が届かなかったら、その者たちを殺さねばならない・・・それはジャック隊長にとって厳しい選択だった。ルマンダがテントに入って来た。
「隊長」
「帰って来たか?」
「いえ、まだ・・・。ソミオの症状が最も進んでいます。もうすぐにでも狼人になるかもしれません。そろそろ決断すべきかと・・・」
「うむ。それなら・・・」
ジャック隊長が立ち上がった時、外で叫ぶ声が聞こえた。
「召喚獣だ!」
ジャック隊長が急いで外を見ると巨大なオルトロスが向かってきていた。
「行くぞ! ルマンダ!」
「はい、隊長!」
戦えるのはジャック隊長とルマンダしかいなかった。2人で何とか食い止めねばならない。
ジャック隊長がオルトロスに向かっていき、
「ブレードバスター!」
を放った。その巨大な刃がオルトロスの頭上から襲う。だがその刃はオルトロスにかわされてしまった。
「ホーリーナイト!」
続けざまにルマンダが魔法を放った。大きな光の輪がオルトロスの上から降りてくる。だがオルトロスはわずかなダメージを受けただけだった。
一方、宿営地ではパニックになっていた。幸いオイゲンが無事だったので彼がラクダたち安全なところに移動させたが、寝込んでいる術者や運び屋たちをどうすることもできなかった。運び屋がジークを含め3人いるだけではとても全員を避難させられない。
「こうなったら俺の念動力でみんなを守って見せる!」
ジークはそう決意していた。他の運び屋たちも自分たちのスキルでなんとかしようと考えていた。
そこに「ドドドッ」と2頭のラクダが宿営地に突っ込んできた。辺りに砂煙が舞った。
「な、なんだ?」
ジークは立ち上がってみると、それはテームズとハンカが乗ったラクダだった。2人がやっと帰ってきたのだ。2人はラクダから降りると秘薬の入った袋を差し出した。、
「待たせたね! さあ、秘薬を早く飲ませて!」
ハンカがジークたちに言った。
「あ、ああ。すぐにみんなに飲ませる! よく帰ってきてくれた!」
ジークはうれしさと驚きで興奮していた。これで皆が助かると・・・ジークたち運び屋はその秘薬を狼人に咬まれた者に次々に飲ませていった。すると少しずつ黒い毛の部分が縮小してきて、ついにはそれがなくなった。苦痛も取れている。狼人の呪いが取れたのだ。
「やった!」
ジークたちは飛び上がって喜んだ、これでみんな救われたと彼らは思った。
だが一人だけそうでない者がいた。それはソミオだった。ジークはソミオを見て呆然としていた。彼のみが黒い毛がわずかしか消えていかないのである。
「ソミオが・・・」
「どうした?」
テームズがのぞき込んだ。ソミオだけが痛みに苦しみ、まだ狼人の呪いが解けていない。
「もしかして狼人の咬まれ方がひどかったのかもしれない。ソミオの呪いの症状が進んでいただろう。」
「そういえば・・・」
確かにそうだった。ソミオの症状がとびぬけて強かったのだ。彼は狼人に強く咬まれていたのかもしれない・・・ジークはそう思った。だとすると・・・ジークは不安になって聞いた。
「ソミオは・・・ソミオはどうなるんです?」
「それは・・・それは神のみが知る。秘薬の力で抑えられるか、狼の呪いが全身に及ぶのかは」
テームズはそう答えるしかなかった。
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