帰路の悪夢
ディックは片目を失い、タランの森の近くでキャラバン隊の様子を遠くからうかがっていた。薬草で進行を遅らせてはいるが、多くの者が徐々に狼人と化してきている。これらの者が完全に狼人となればまた人を襲い、キャラバン隊の者はすべて狼人となり、このタランの森江御さまようことになる。
「秘薬が届かねばキャラバン隊は勝手に消滅する。わざわざ手を下さなくてもただ見ているだけでよいだろう。ふふふ・・・」
ディックはほくそ笑んでいた。狼人が群れでハゲンの村を襲ったのだから、秘薬を受け取りに行った者たちはその村ですべて狼人になって戻ってこないだろう・・・そう考えていた。
しかしその目論見はもろくも崩れ去った。狼人が1体だけ、ディックの元に逃げてきたように戻って来たのだ。彼はそれでハゲン村襲撃が失敗したことを知った。そうであれば秘薬がキャラバン隊にもたらされ、狼人の咬まれた者たちを治療して隊を立て直すかもしれない。
「小癪な! それならもうよい。俺の傷は癒えた。キャラバン隊を直接、襲ってやる! 今度こそ全滅だ!」
ディックは立ち上がった。その横には1体だけだが狼人がいる。彼らはまた召喚獣オルトロスになってキャラバン隊の者たちを抹殺しようとしていた。キャラバン隊に危機は迫っていた。
一方、ゲオルテ大使たち一行は秘薬を手にして一刻も早くキャラバン隊に戻ろうと、ラクダを必死に走らせていた。だが思うように進むことはできない。途中で激しい嵐に襲われて避難したり、途中の急にできた川を渡るのに手間取ってたりした。このままのスピードでは間に合うか、間に合わないかギリギリのところだった。皆は気ばかり焦っていた。
ゲオルテ大使がテームズに尋ねた。
「あとどれくらい時間がある?」
「あと半日、いえ、もっと短いかもしれません。今は半分くらい来たところですから、このままでは・・・」
テームズはそう答えた。秘薬が間に合わなければキャラバン隊は壊滅する・・・。
ゲオルテ大使は自分が足手まといであることをよくわかっていた。早く秘薬を届けなければ・・・
「ハンカ! テームズ! 儂らにかまわず先に行け! 秘薬を一刻も早く届けるのだ!」
ゲオルテ大使が2人にそう声をかけた。彼にも今の危機的状況がわかっていたのだ。こうでもしないと間に合わないと・・・。それにハンカとテームズが答えた。臆病なゲオルテ大使を置いていくのは心残りだが、今はそうするしかない。
「それなら先に行きます!」
2人はラクダに鞭を入れた。するとラクダはさらに速く走りだした。
「頼むぞ。必ず間に合わせてくれ!」
ゲオルテ大使は彼らの後ろ姿を見ながらそう呟いた。
ハンカは必死だった。彼女の脳裏にはキャラバン隊の者がすべて狼人と化した地獄のような光景が目に浮かんでいた。その悪夢のような想像を振り払い、
(何とか間に合って・・・)
ハンカは心の中で祈っていた。
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