モリード

 リーナたちは町外れまで走って逃げた。やっと逃げ切れたとほっとしたとき、遠くにゾンビのような男たちの一団を認めた。ハンカがため息交じりに呟いた。


「やだ! まだ追ってくる!」

「どうしたらいいのかしら。戦っても倒すことができないし・・・」


 リーナは考えてみたが、いい考えは浮かばなかった。


「とにかく戦ってここを脱出して宿営所に戻るしかないわね。ジャック隊長たちならいい手を知っているかもしれない」


 その時、一人の若い男が近づいてきた。


「お困りのようですね。旅の方ですか?」

「ええ、あなたは?」


 リーナが尋ねると、その若い男は答えた。その物腰はまるで老人のように柔らかだった。


「これは申し遅れました。私はそこの屋敷に住むモリードと申します。我が屋敷にいらっしゃいませんか? そこなら安全かと思います」

「これはありがたい。ぜひ!」


 横からハンナが勝手に答えた。リーナは驚いて目を剝いていたが、反対することもしなかった。その屋敷は高い塀に囲まれて、塔のような部分だけが見えていた。金持ちの家であることは確かなようだ。ただこんなさびしいところには建っているが・・・。


「それではこちらにどうぞ」


 モリードはリーナたち4人を自分の屋敷に連れて行った。その屋敷はよくわからない金属の壁でできており、モリードがそばに寄ると勝手に一部が開いた。ここが玄関の様だ。


「さあ、遠慮なさらず。どうぞ。どうぞ」


 言われるがままにリーナたちは中に入った。部屋の中はその外観とはまるで違って、古いものから新しいものまで装飾品や置物が飾られていた。室内は華やかな雰囲気なのだが、不思議なほど静まり返って寂しい印象を与えていた。


「さあ、そこのソファでくつろいでください。お疲れでしょう。今。お茶でも入れます。


 モリードは奥に引っ込んでいった。


「何か不思議な人だね。」


 ソミオがそう言うと、ジークがうなずいた。


「ああ。でも金持ちってそんなものだろう。変わり者が多いからな」

「これ見なよ! 珍しいものがあるよ」


 ハンカが棚を指さした。


「これって幻の器ってやつじゃないの?」


 棚に無造作にいくつもの器が置かれていた。それは七色に輝き光を放っていた。


「ラロンの器よ。確か四百年前から作る者がいないって」

「へえ。でも新しいそうじゃない。最近作ったような」

「それもそうね。もしかしたらここの主人はその作り方を知っている人なのかもね」


 リーナとハンカはそんな話をしていた。確かのその部屋のある装飾品は無造作に置かれているが、古い製法で新しく作り出したようなものが多かった。


「不思議な人ね。一つ占ってみるか・・・」


 ハンナはカードを出してモリードのことを占ってみた。その結果は・・・ハンカは首をひねっていた。その時、


「さあ、お茶です」


 モリードは部屋に入ってきて4人にお茶を出した。リーナとハンカは警戒していたが、ジークとソミオはすぐに口をつけた。


「うまい」

「ああ、そうだ!」


 ジークとソミオが感嘆の声を上げた。それにつられてリーナとハンカも恐る恐るお茶を飲んでみた。それは芳醇な香りとコクのある味がして、心をゆったり休ませるものだった。

「こんなお茶は飲んだことがないわ」

「あら、本当に」


 リーナとハンカは顔を見合わせた。


「ははは。私が毒でも差し上げると思っておられましたか?」


 モリードは笑った。


「いえ、そんなことは・・・」

「いいんですよ。こんな怪しい男に屋敷に連れてこられたらそう思うでしょう」


 モリードは笑顔でそう言った。リーナはこの屋敷が静かすぎるのが気になっていた。


「それにしても立派なお屋敷ですね。ご家族の方とお住まいなのですか?」

「私一人なのです。旅のお方が来られるとお招きして話を伺うのが楽しみなのです」

「そうだったのですか・・・。ところでこの部屋の装飾品は素晴らしいですね。幻のラオンの器まである」

「いえ、旅の方から譲ってもらったのですよ。私のことはいいですから皆さまの話を聞きたいものです」

「旅と言ってもまだ日が浅いですから・・・」


 モリードとリーナたちは和やかに話をしていた。時のたつのを忘れて・・・。


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