黒い影
ソミオはテントの外に出て、夜の砂漠をしばらく歩いた。その頭上の空には星がまばゆくきらめいていた。ソミオは冷えた砂の上に寝転がっていつものように星空を見上げた。かすかに残る前世のライティの記憶が頭に浮かんでいた。
(あそこに僕はいたんだ。あの星々を飛び回っていたんだ・・・)
だがソミオにはもうライティの力はなくなっている。それを思うとソミオは悲しかった。いや自分が情けなかった。
(ライティは宇宙の平和のために戦っていた。その力におごることもなく・・・。だが自分はどうだ。いい気になって自分を失っていたんだ・・・)
ソミオはため息をついて空をまた眺めた。すると遠くから大きな影が近づいてくるのがわかった。
(おや? 何だろう?)
その影はどんどん近づいてくる。それを見てソミオははっとして立ち上がった。
「大変だ! 早く知らせないと・・・」
ソミオは急いでテントの方に走った。
◇
ジャック隊長の一行はラクダで走りまわってキングドラゴノイドを探した。だがかなり広い範囲を捜索したがその姿を発見できなかった。
(どこだ? どこにいるんだ?)
ジャック隊長は辺りを見渡すがその気配は感じられない。辺りは深い闇が広がるだけである。だがその代わり彼は嫌な予感がしていた。もしかすると・・・。
「ワンズ! ワンズはいるか!」
「へい。隊長。なんでしょうか?」
ワンズが駆け寄って来た。彼を魔獣探索のために連れてきていたが、行く先々ではその気配を感じていなかったのだ。
「キャラバン隊の方を見てくれ。異変はないか?」
「へい」
ワンズはキャラバン他のいる方角をじっと見た。そして目をつぶり何かを感じようとしていた。少しの間沈黙が続き、そしていきなり目を開けた。
「隊長。大変です! 大きな影がキャラバン隊に向かっているようです!」
「やはりな!」
ジャック隊長は声を上げた。まんまと裏をかかれたのだ。
「みんな! ラクダに乗れ! 急いでキャラバン隊の方に戻るぞ!」
ジャック隊長の声で術者たちは一斉にラクダに乗って走り始めた。
「間に合ってくれ!」
ジャック隊長もはやる気持ちを押さえながらラクダを走らせた。
◇
キャラバン隊の宿営地では見張りに出ていた運び屋が声を上げた。
「空から何か来ます!」
その声でルマンダがすぐにテントの外に出てきた。確かに遠くに大きな黒い影が見える。よく目を凝らしてみるとその正体がわかった。
「あれはキングドラゴノイドです。ここを襲ってきたのです」
「何ですって! 一体、どうして・・・」
「このキャラバン隊が目的だったのかもしれません。もしかするとこれも敵の仕業かもしれません」
怪我をしているトロイカは、剣は何とか使えるというように右手を回して言った。
「とにかく迎え撃ちましょう!」
だがルマンダは首を横に振った。
「いいえ。私の計算では勝ち目がありません。結界を張ってジャック隊長を待つのです。運び屋のスライズにラクダで知らせにやってください。ジュールさんはいますか?」
ルマンダに呼ばれてジュールが出てきた。
「2人でここに結界を張りましょう。相手はキングドラゴノイドです。強力に張らなければ破られてしまします。いいですね」
「はい。それでは・・・」
キングドラゴノイドは空からキャラバン隊の宿営地に近づいてきた。大きな翼を羽ばたき、
「グオー!」
と咆哮していた。確かにその凶悪さ、その巨大さは波のドラゴンをはるかに超えていた。
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