夕闇の迫る中

 ソミオは運び屋のテントに戻った。落ち着いてみると様々なことが頭に浮かんでいた。


(やはり僕はいい気になっていたんだ。ライティの強大な力を手に入れたと思って・・・)


 ソミオはポケットからちぎられたままの首飾りを取り出した。少し前ならその首飾りからライティの心の声が聞こえてきたように感じたが、今は何も聞こえない。ただの無機質な首飾りになってしまったようだ。


(僕が慢心したからライティの力が失われてしまったのか・・・。だから変身できないのか・・・)


 ソミオはそう思うしかなかった。そこにジークが入って来た。


「ソミオ! 話は聞いた。キャラバン隊を外されるって本当か?」


 ジークは親友のことを心配して見に来たのだ。


「ああ、そういうことになった。ジークには世話になった。旅の安全をお祈りしているよ」


 ソミオは心配させまいとわざと明るく言った。しかしジークにはソミオの心の内はわかっていた。


「あきらめるのはまだ早い。隊長には俺からもお願いする。きっとわかってくれるはずだ」

「いや、もういいんだ。僕が悪かったんだ」


 ソミオは答えた。彼には慢心した自分が仲間を危険にさらしたのだから仕方がないという気持ちがあった。それにライティに変身できなくなった自分などキャラバン隊に必要がないとも思っていた。


「僕はもうキャラバン隊の運び屋としては失格なんだ。もう構わないでくれ・・・」


 ソミオは顔をそむけた。その様子にジークはどう声をかけたらいいかもわからず、そっとそのテントを出て行った。


 ◇


 ジャック隊長はこれからのことを考えていた。あれがただのドラゴンでないから簡単には排除できない。だからと言って放ってもおけない。キャラバン隊の行く方向にそれが待ち構えているのだ。彼は横にいるルマンダに言った。


「やはりこのままにしてはおけない。あの魔獣を倒さねばならない」

「しかしあれはキングドラゴノイドという強力な魔獣です。倒さずともこちらが迂回して通り過ぎる手もあるのではないでしょうか?」


 ルマンダは別の手を提案した。ジャック隊長はそれに対して答えた。


「それも考えた。我々は崇高な使命を受けたキャラバン隊だ。確かにかかわるべきでないという意見もあるだろう。しかしあの魔獣がいる以上、多くの者に、いや多くの村に甚大な被害が出る。これらの災いを取り除いて道の安全を切り開くのもわれらの役目だ」

「それは確かにそうですね」


 ルマンダは同意してうなずいた。


「それでだ。これからあの魔獣を急襲する。魔獣はこの近くにいるはずだから早い方がいい」

「勝算はあるのですか? 私の計算では五分五分、いや三分しか勝ち目がないように思えますが・・・」

「いや、術者の包囲してからの波状攻撃、特に翼を狙えば倒せるだろう。ドラゴンは翼が弱点なのだ。キングドラゴノイドとても例外ではないはずだ。俺が直接、指揮を執って魔獣を退治してくる。ルマンダは後を頼む」

「わかりました」


 そうしてジャック隊長は自らキングドラゴノイドの退治に向かうことになった。彼に従うのは剣士のロイアンと魔法使いのリーナ、槍使いのダルレ、弓使いのメレ、そしてワンズたち運び屋数名だった。彼らは夕闇の迫る中をラクダに乗って出かけて行った。

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