変身不能

 トロイカとジュールは前方にドラゴンの姿を見た。いや、ドラゴンの形をした魔獣を見たという方が正しいのかもしれない。通常のドラゴンの2倍はあり、鋭い歯が並ぶ口は大きく、その手足の爪が大きく鋭く曲がっていた。


「ジュール。あれは・・・」

「ああ、そうだ。普通のドラゴンじゃない。召喚獣と言った方が近いのかもしれない」

「そうだな。あれでは持ってきた装置で退治することは難しいだろう」

「私もそう思う。一旦、退いて隊長の指示を仰ごう」


 ジュールとトロイカはそっとその場を離れようとした。しかしそのドラゴンに似た魔獣は彼らに気付いた。いきなり立ち上がると口から火炎を吐いた。


「いかん! シールド!」


 ジュールがシールドを張って火炎を防いだ。そしてトロイカが剣を抜いて、


「ナイトブレード!」


 を放った。それは魔獣を直撃したが傷つけることはできなかった。


「ガオー!」


 と魔獣は咆哮して2人に襲い掛かって来た。こうなればもう逃げるしかない。2人はソミオのいる方に走った。その途中、ジュールは時々振り返っては、


「ホーリーフラッシュ!」


 を放ってドラゴンに目くらましをしていた。それで2人は何とかドラゴンから逃げ切れたのだ。


 一方、ソミオはトロイカたちが現れて合図を送っているのをひたすら待っていた。そこに2人が息を切らせながら戻って来たのだ。


「どうしたのですか?」

「あれはドラゴンじゃない。別物だ」

「この装置では無理だ。いったん退くんだ!」


 ジュールとトロイカがそう答えた。するとソミオの目にも追ってくるその魔獣の姿が見えた。だが彼には大きくはあるがただのドラゴンとしか認識できなかった。


「ドラゴンじゃないですか。少し大きいだけの」

「そうじゃない。あれは違うのだ。ここは一旦、退いた方がいい」

「大丈夫ですよ。この装置があれば」

「だめだ。早く逃げないと皆やられてしまうぞ!」


 ジュールがそう言うもソミオは納得できなかった。その間にも魔獣は近づいてくる。


「とにかくやってみましょう」

「だめだ! 奴を余計に刺激してとんでもないことになるかもしれない」

「いえ、やります! 任せてください!」


 ソミオは装備から離れようともしなかった。絶対、自分がドラゴンをやっつけてやるんだ・・・と心に決めていた。


「やめろ! 一緒に逃げるんだ! このままでは危ないぞ!」


 トロイカは大きな声を出してソミオを止めた。その間にも魔獣は近づいてきており、装備の射程距離の中に入っていた。


「射程距離に入った! 発射!」


 ソミオはスイッチを押した。するとその装置の筒から魔法が放たれた。それは網のように広がり魔獣に覆いかぶさった。


「やった!」


 ソミオは拳を振り上げた。彼にはそれで退治できるように思えたのだ。しかしそうではなかった。ドラゴンとは別物のその魔獣は魔法の網の中で魔獣の力を放った。するとその網は容易に破れ、その力は周囲に飛び散った。


「ドカーン!」


 地上のいたるところで爆発が起きた。その爆風に3人は巻き込まれて吹っ飛ばされてしまった。


「ガオー!」


 ドラゴンが怒り猛って咆哮した。辺りを砂煙が舞う中、ソミオは地上に叩きつけられながらもまだ意識があった。身を起こすと、そばにジュールとトロイカが倒れていた。2人とも息があるようだったが、


「ジュールさん! トロイカさん!」


 と声をかけたが目を覚まさない。気を失っているようだった。気が付くと魔獣が目の前に迫ってきていた。


(こうなったらライティになって戦う! ドラゴンを倒すんだ!)


 ソミオはそう思って首飾りを引きちぎり、右手で上に掲げた。


「ライティ!」


 だが何の変化も起きなかった。首飾りは光を放つこともなくただそのままの姿を保っていた。


(おかしい! どうして変身できないんだ!)


 ソミオはまた首飾りをつかんだ右手を掲げた。


「ライティ!」


 やはり何の変化もない。首飾りに特に変わった様子は見えなかった。


(どうしたんだ! ライティ! いつものように出てきてドラゴンを倒してくれ!)


 ソミオは焦りながらも何度も右手を掲げた。


「ライティ!」「ライティ!」「ライティ・・・」


 しかし変身できなかった。ソミオは訳が分からなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る