大きな被害
タイタンは術者を始末するとラクダの隊列の方に向かった。ラクダや人の避難はまだ完了していない。特に座り込んだラクダはジークたちの懸命な作業でもまだまだ多く残されていた。
「私の計算ではもう間に合わない。ラクダを放棄して皆逃げなさい」
ルマンダはそう言ったが運び屋たちは承知しなかった。ラクダや運んできた荷物をそんな簡単に諦められないのだ。
「俺たちも手伝うぜ!」
と他の運び屋がジークを助けようと彼らのところまで走った。だがタイタンが早くも攻撃してきた。巨大な土の塊が降らしてきたのである。運び屋たちはそれらの下敷きになっていった。辺りに運び屋たちの悲鳴が響き渡り、砂煙がもうもうと立っていた。
ジークはスキルの念動力を発動して何とか岩を避けたが、そばにいた運び屋たちはやられてしまっていた。一方、驚いたラクダは急に立ち上がってあらぬ方向に逃げていた。
「おい、そっちじゃねえ!」
そんなことを言ってもラクダは聞こうとしない。しかし急にラクダが立ち止まり、一斉にある方向に走り出した。
「なんだ?」
砂煙の中、目を凝らすとラクダが走っていく方向に一人の男が立っていた。彼は大きな体を揺らして両手を巧みに動かし、ラクダに微笑みながら声をかけて操っているようだ。その集まったラクダたちを今度は町へと誘導している。
「よかった。そういうスキルを持っている人がいて。見かけない顔だが、エイスンの町の者か?」
ラクダの方は何とかなりそうだが、他の仲間たちは・・・そういえば手伝ってくれていたソミオがそばにいない。ジークは辺りを見渡した。するとその少し先にソミオがいた。彼は衝撃で吹っ飛ばされたものの助かっていた。
「ソミオ!」
「ジーク!」
2人が駆け寄った。その時、またタイタンが土の塊を落としてきた。彼らの上に岩が落ちてくる。ジークは念動力を使ってはねのけようとするが、今度は岩が大きすぎてどうにもならない。このままでは2人とも押しつぶされる・・・。
死を覚悟したジークは強い力で突き飛ばされていた。ソミオがとっさにジークを助けようとしたのだ。飛ばされて地面に転がるジークが見たものはソミオが岩に押しつぶされる瞬間だった。
「ソミオ!」
ジークは叫んだ。ソミオはジークに微笑みかけて、そのまま岩の下敷きになった。
「ソミオ! しっかりするんだ! 今、どけてやる。」
ジークは必死になって念動力でなんとか岩をどけた。そしてすぐに駆け寄ってソミオを抱き上げた。だがもう息をしていなかった。親友を救って安心したのか、その顔は安らかだった。
「ソミオ! ソミオ! ソミオー!」
ジークは何度も呼び掛けたが、ソミオが目を開けることはなかった。
◇
「兄貴! しっかりしろ!」
アイリードは呼びかけられてやっと目を覚ました。彼の前には弟のジャックがいた。彼はアイリードの見送りにここまで来ていたのだ。
「やっと目覚めてくれたか」
「ジャックか。キャラバン隊は?」
身を起こすとタイタンはラクダの隊列に攻撃を仕掛けていた。それを残った術者が何とか防いでいた。
「こうしてはおれぬ。行くぞ!」
「兄貴。無理だ。その体で」
確かにアイリードの体は傷つき、あちこちから血が流れていた。
「大丈夫だ。隊長である以上、戦わねばならぬ」
「わかった。俺も手伝う」
アイリードはジャックに支えられて立ち上がると、2人でタイタンの方に向かった。
タイタンは生き残った剣士と魔法使いに手を焼いていた。魔法使いが剣士を分身させ、それぞれの分身体が、
「マスターブレード!」
を放っていた。タイタンのダメージは大きくないが、分身する剣士をなかなかつぶすことができなかった。それで時間を稼いでいたのだ。だが彼らもタイタンの降らす土の塊で傷を負っていた。しかも魔法使いの力に限界が近づいて、その分身の魔法が途切れてきていた。そしてとうとう剣士の姿が一つになった。そこをタイタンに狙われた。いくつもの岩がその剣士に飛んできたのだ。
「ゲレオン!」
魔法使いのリーナがその剣士の名を叫んだ。ゲレオンはあっけなく岩の下敷きになってしまった。そうなったら彼女には救う手立てがない。彼女は目の前の惨劇に茫然として立ち尽くしていた。そこにタイタンが彼女にも攻撃を加えようとしていた。
「リーナ! 逃げろ! あとは任せるんだ!」
アイリードの声が響いた。それでリーナはハッとしてその場から逃げた。ようやくアイリードとジャックがタイタンの前に立ちはだかったのだ。
(ここは私の力でタイタンを抑えねばならぬ!)
ジャックに支えられてここまで歩いていたアイリードは、一人で前に出て剣を抜いた。そして大きく振りぬいてタイタンを攻撃した。
「ナイト オブ ナイトメア!」
するとタイタンの頭上から大きな光の刃が振り下ろされた。
「バーン!」
と大きな音がしてタイタンに大きな衝撃が走った。それはかなりのダメージがあったようだ。タイタンが頭が混乱してふらついていた。
(よし! もう一撃!)
アイリードはさらに第二撃を加えようとした。だがその前に混乱したタイタンがやみくもに土の塊を周囲に落とした。
「うわっ!」
アイリードは落ちてきた岩の塊を受けて跳ね飛ばされた。
「兄貴!」
ジャックは駆け寄ろうとしたが、タイタンがさらに土の塊を降らそうとしていた。
(俺が奴を止めなければ・・・)
ジャックはとっさに剣を抜いて振り下ろした。
「ナイツ オブ ナイン!」
するとジャックのそばに馬に乗った騎士が9人現れた。それが次々にタイタンに向かっていった。一人が剣を抜いて突撃して消え、その後にまた突撃して消え・・・それぞれの騎士の攻撃でタイタンはダメージを受けていた。そして9人の騎士の攻撃を受けてこらえなくなったのか、
「ぐおー!」
と声を上げてその姿は薄くなり、やがて消えて行った。
「やったか! いや、逃げられたか・・・」
タイタンを消滅させたわけではない。ダメージを受けて退いていったのだ。だが追い払ったのは確かだった。ジャックは辺りを見渡した。多くの術者が倒れ、ラクダが傷つき、荷物が散らばっていた。しかし何よりこのキャラバン隊を率いている兄が深手を負っていたことが、キャラバン隊の行く末を大いに不安にさせていた。
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