第2話 エイスンの町
隊長の後任
【キャラバン日誌 ロマネスク歴 2067.1212 隊長アイリード記録。突然現れた召喚獣のタイタンにより我が特別キャラバン隊は人員、装備とも大きな被害を受けた。ラクダや各種装備はこの町で補えるかもしれないが、術者や運び屋についてはそう簡単にはいかないだろう。しかも私自身が深手を負い、歩くこともままならない。もうこのキャラバン隊を率いていくことは無理だろう。私の後任も探さねばならないが・・・】
アイリードは重傷を負い、病院のベッドに寝かされていた。あの戦いで砂漠で倒れた後、ジャックに背負われてここに担ぎ込まれたのだ。そばにはルマンダがついていた。
「キャラバン隊の状態はどうだ?」
「壊滅的な損害です。生き残ったのは魔法使いのリーナと運び屋のジーク、モンテ、ドーグだけです。ラクダの半数が死亡。多くが傷を負っています。荷物の半分ほどは無事です」
ルマンダは無表情で報告した。彼女は感情を表にあらわさないのである。
「そうか・・・。肝心のアレは?」
「無事です。」
ルマンダは肩の袋を持ち上げた。アイリードは最も信頼のおけるルマンダにだけはエラスポンダのことを話して、それを預けているのだ。
キャラバン隊をこのまま長い間、この町にとどめておくことは避けたかった。またタイタンが町中まで襲ってくる可能性が十分ある。早く大損害を受けたキャラバン隊を再建しなければ・・・。だが今のアイリードには無理であり、その再編はルマンドに任せるしかなかった。それに彼にはわかっていた。この深手を負った自分はもうキャラバン隊を率いていくことはできないと・・・。
(あいつしかいない。私の代わりが務められるのは・・・)
アイリードがそう思っていると、病室のドアがノックされ、弟のジャックが入ってきた。
「兄貴。気分がよさそうだな」
「ああ。今度ばかりはお前に助けられた。ジャック。感謝しているよ」
「何、言っているんだ。俺は兄貴に助けられているばっかりだった」
「いや、私はお前を見直した。だから頼みがある」
アイリードは体を起こして、ジャックの目を見ながら言った。
「お前がこのキャラバン隊を率いてくれ」
ジャックは兄が何を言っているのか、理解できなかった。王宮勤めが嫌になって辞めてふらふらと生きている自分に対して、この国の英雄である兄が何を言うのかと・・・。
「冗談言うな。怪我を治してから兄貴が行けばいいじゃないか!」
「いや、私は本気だ。お前ならできる。私はそう直感したのだ。それに・・・」
アイリードはルマンダに合図して、彼女が預かっている箱からエラスポンダを出して見せた。それは神秘的な光を発して空に浮いていた。ジャックは訳も分からず、引き込まれるかのようにそれをじっと眺めていた。
しばらくしてルマンダがエラスポンダを箱に納めた。そこでジャックははっと正気に戻った。
「これはエラスポンダだ。それは・・・」
アイリードはこれについてワスカ大臣から教えられたことをすべてジャックに話した。そしてこの特別キャラバン隊は秘密の任務があり、エラスポンダという世界を滅ぼしかねない宝をシーナの秘境ツイパングに納めるということも・・・。
ジャックはその話を聞かされて愕然とした。そんな国の、いや世界の大事を自分に託そうというのかと。
「俺なんかにできるはずがないじゃないか。兄貴なら・・・」
ジャックの言葉にアイリードは大きく首を横に振った。
「私はもう歩くことはできない。だから秘密をお前に打ち明けた。これを聞いたからにはもうこの呪縛から逃れることはできない。やってくれるな。」
「そ、そんな・・・」
ジャックはその任務の重圧に押しつぶされそうだった。アイリードはジャックの目をじっと見ていた。そして念を押すように強く言った。
「ジャック! お前がやるんだ! お前しかいないのだ!」
だがジャックは激しく首を横に振った。
「いやだ! いやだ!」
ジャックは病室を飛び出すように出て行った。
「まて! ジャック! 待つんだ!」
だがアイリードの言葉はジャックに届かなかった。アイリードは肩を落としてため息をついた。その様子をルマンダは静かに見ていた。
「ルマンダ。どう思う?」
「私もジャックさんが適任と思います。様々な角度から検討した結果です」
アイリードの問いにルマンダはすぐにそう答えた。それを聞いてアイリードは確信したかのように深くうなずいた。
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