タイタン襲撃
アイリード率いる特別キャラバン隊の一行が王都ジュピターを出発した。先頭をアイリードの乗ったラクダを歩き、その後を副官のルマンダのラクダが続いた。ルマンダはこの旅の事務や雑用を取り仕切る役で、計算に明るいので重宝されていた。
その後に100頭以上のラクダが列をなして並んで進み、剣士、弓使い、魔法使い、聖職者など20名を超える術者がそれに乗っていた。その傍らには多くの運び屋たちが歩いていた。その中には運び屋のジークの姿も見えた。どれも厳選した一流の者たちだった。
その一行の姿は華々しかった。そしてその威容は砂漠に立ちはだかる魔物たちを圧倒するように感じられた。彼らを見送るため沿道には多くの人たちが並び、
「がんばれ!」
「しっかりやって来いよ!」
「無事に帰って来いよ!」
と激励の言葉をかけていた。
だが特別キャラバン隊の真の目的は誰も知らない。ただ友好のために様々な国を訪問するとだけ伝えられていた。そのため王様の使者としてゲオルテ大使も同行していた。
「私のような高官がわざわざ出ぬかねばならぬとは・・・」
年配でプライドの高いゲオルテ大使は不満を述べていた。しかしその実、内心ではこの任務に選ばれてその自尊心を満足させている・・・という俗物だった。
ともかく一行は何事もなく整然とエイスンの町へ進んでいた。それとともに関係者や家族の列が連なり、ソミオも後を歩いていた。彼らは国境の町、エイスンで大々的に見送りをしようというのだ。
キャラバン隊では主に隊長が日誌を書く。出発したその日、アイリードは新しい日誌に書き込んでいた。
【キャラバン日誌 ロマネスク歴 2067.1211 隊長アイリード記録。いよいよ理想郷と呼ばれるシーナに向けて旅発つことになった。最高の人員、装備を集めた特別キャラバン隊を組織することができた。これから苦難の旅が待っていよう。だが我々はくじけずに前に進むだけだ】
特別キャラバン隊は順調に進んでいた。見送りの人も引き連れて・・・。だがその後ろには怪しい人影もついてきていることには誰も気づかなかった。
◇
キャラバン隊本隊より先行させていた偵察隊の者たちが戻ってきた。彼らはうれしそうに報告した。
「エイスンの町が見えました。あと少しです!」
それを聞いてアイリードは少し緊張を解いた。
「やれやれ。今日はゆっくりできそうだ」
「そうですね。隊長はゆっくりお休みください。明日の準備はやっておきます」
副官のルマンダが無表情に言った。彼女のおかげで厄介な事務仕事から解放される。ここで一泊した後、ジーダの大砂漠に乗り出すのである。今までは何の妨害もなくやって来られたが、これからが試練が待っていると彼は感じていた。
いよいよエイスンの町が見えてきた・・・という時に、いきなり、
「ズゴー!」
という大きな音と地面の砂が舞いあがった。地面が大きく揺れている。
「何事だ!」
アイリードは叫んだ。するとキャラバン隊の前に大きな岩の塊のような巨人が立ちはだかっていた。
「タイタンだ!」
誰ともなしに声を上げた。それは強大な力を持つ土属性の召喚獣であった。襲われればひとたまりもない。キャラバン隊を見送りに来た人々は悲鳴にも似た声を上げて逃げ惑った。
(こんなところにタイタンだと! そんな馬鹿な・・・。いや、早速、このキャラバン隊に魔の手が伸びようとしているのか! こんなものに襲われれば全滅してしまう。とにかくあれを守らねば・・・)
アイリードは周囲を見渡して冷静に判断してこう命令を下した。
「運び屋はすぐにラクダをエイスンの町に入れよ! ルマンダが指揮をとれ! 見送りに来ている者も町に誘導するのだ! 他の者は隊列を組んでタイタンを攻撃して時間を稼ぐのだ!」
「おう!」
連れてきた術者はすべて精鋭ぞろいである。それぞれがラクダを降りてアイリードの前に隊列を組んだ。剣士や槍使いや弓使いを前にして、魔法使いと聖職者を後ろに配置している。
タイタンが土煙を上げてこちらに向かってきていた。術者たちはそれを撃退せんと
その後方ではルマンドの指揮のもと、運び屋たちがラクダをまとめて町の方に歩かせていた。ついてきた人々も誘導されて町の方に向かっていた。だがなかなか早く進むことはできない。それにラクダが座り込んだり、逆の方に逃げようとするので運び屋たちも手を焼いていた。
ジークもはやる気持ちを押さえて座り込んでいるラクダを立たせた。するとズボンの裾をひっぱられるのを感じた。
「おい、助けてくれ! 腰が抜けてしまった。お願いだ!」
それはゲオルテ大使だった。威張り癖のある彼も恐ろしい召喚獣の前ではだらしがなかった。四つん這いになってジークのズボンに縋りつき、哀れな声を出して懇願していた。
「しっかりしてくださいよ」
「おぶって町まで運んでくれ。そうしたらお前に褒賞を授ける。なっ、いいだろう」
「そんなことをしている暇はありません。さあ、ラクダにつかまって!」
ジークはゲオルテ大使をラクダに担ぎ上げ、そのままラクダの尻をポンと叩いた。するとラクダは走り出した。
「無礼者め! 覚えていろ!」
という声を残して・・・。ジークはやれやれと肩をすくめた。まだまだ座りこんでいるラクダは多くいる。こいつらを早く立たせて歩かせねばと思っていると、聞き覚えのある声が聞こえた。
「手伝うよ!」
そう声をかけたのはソミオだった。
「これは助かる。頼むぜ」
「任せとけ!」
ソミオも座っているラクダを立たせていた。
アイリードはタイタンとの間合いを図っていた。タイタンほどの大物になると個々の攻撃は無力だ。一斉に攻撃を仕掛けねばならない。タイタンが駆けてくる地響きがだんだん大きくなってきた。
「よし、はじめ!」
アイリードがそう声を上げると、まずは魔法使いが呪文を唱え、
「サンダー!」
とタイタンに雷を落とした。一瞬、電流が走りパッと光ったがタイタンにダメージはない。次に聖職者が、
「ホーリーフラッシュ!」
とまぶしい聖なる光を浴びせたが、タイタンは両腕で顔を隠しただけだった。その後にも様々な魔法で攻撃をかけるがタイタンはびくともしない。タイタンはさらに進み、その距離は縮まってきている。
「次は直接攻撃だ! 行け!」
アイリードはそう命令を下した。それで弓使いが矢を放ち始めた。それはすべて術者が放つ矢であるから一本一本の威力はすさまじい。タイタンに当たり爆発を起こした。
「やったか?」
だがタイタンは平気な顔をしていた。次に槍使いが槍を投げた。これも爆発を起こすがタイタンは止まろうとしない。後は自慢の剣士隊しかいない。
3人の剣士は横並びで立つと、
「ナイトブレード!」
と波動の刃を放っていく。それはすべての者を切り裂く必殺の技だった。だが、
「チャリン・・・」
とタイタンの体に当たり、砕け散っていく。それは何度やっても同じことだった。
(そんな馬鹿な・・・。これほどまでの攻撃がどれ一つ効かないとは。奴は一体・・・)
アイリードがそう考えをめぐらすと一つの答えが出てきた。
(あれは普通の召喚獣ではない。もしかすると・・・黒魔術か! 奴らの使う黒魔術の召喚獣は術者がその者に乗り移るという。きわめて残酷で強力な召喚獣になってしまうのだ。となるとこれではいかん!)
アイリードが次の命令を出す前に、タイタンが攻撃を仕掛けてきた。地面を引きはがして投げつけてきたのである。それが術者の上に降り注いだ。
「うわー!」
叫び声が上がり、術者たちはその下敷きになった。アイリードは何とかそれを避けられたものの、その衝撃と風を受けて飛ばされて地面に叩きつけられた。
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