秘宝エラスポンダ

 アイリードは王宮の奥の間に護衛の兵とともに連れていかれた。そこにはワスカ大臣が待ち構えていた。日も差さぬ薄暗い部屋にはきらびやかな装飾をした大きなテーブルがあり、その上に小ぶりな箱が置かれていた。


「よく来られた」


 ワスカ大臣は無表情のままで言った。アイリードは静かに頭を下げた。ワスカ大臣この国の大臣の中でも特にジョージ王の信任が厚かった。それゆえに表に出てはいけない極秘の仕事を任されているとうわさされていた。彼は鋭い眼光をアイリードに向けながら話し出した。


「これは最高機密事項だ。このことが漏れればこの国、いやこの世界自体が破滅に向かうかもしれない」


 ワスカ大臣は厳しい顔でそう言った。アイリードは無言でうなずいた。するとワスカ大臣はテーブルの上の箱を手に取った。それは何の材料でできているのかわからないが、見たことのない文様が描かれ、言い知れぬ雰囲気を醸し出していた。


「これを見られよ」


 ワスカ大臣がその蓋を開くと、中から光り輝く物体が空中に浮かんで回り始めた。それは辺りにまぶしいばかりの光を発して、日の差さぬ部屋を昼間のように明るくした。


(なんだ! これは!)


 驚くアイリードを前に、ワスカ大臣は静かにその物体に目をやっていた。やがてワスカ大臣が蓋を閉めようとするとその輝く物体は箱の中に戻った。そして蓋がまた箱にかぶされた。それで部屋はまた薄暗くなった。


「これは何でございますか!」

「詳しくはわからぬ。だがエラスポンダの可能性がある」

「エラスポンダ?」


 方々を旅して見聞を広めているアイリードにも、それについて聞いたことはなかった。


「そうだ。エラスポンダだ。伝説の宝と言われている。その存在を知っているものは限られた者たちだけだ」

「それがここに・・・」

「ああ、そうだ。3か月前、ある盗賊団を追い詰めることができた。そやつらが持っていたものだ」

「ではどこからか、盗んだものですか?」

「多分な。だがこれは厄介なものなのだ。絶対に持っていてはならぬものなのだ」


 ワスカ大臣の目が光った。


「それはどうしてですか?」

「これの力は絶大だ。世界を支配する力を持つと言われている。だがこれを持ってしまえば破滅するとも言われてきた。その圧倒的な力の前に。だから我々はこれを返そうと思う。安全なところに」

「それがシーナ・・・ですか?」


 ワスカ大臣は深くうなずいた。


「シーナには不思議な力が集まる。これは秘境ツイパングに納められていたと思われる。そこに戻せばその力は封印され、世界は救われよう。しかしこれが邪悪な心の者の手に渡ると・・・世界は壊滅するかもしれぬ」


 それを聞いてアイリードは決心した。これは自分にしかできない仕事だと・・・どんな障害が待っていようとやり遂げねばならぬと。


「わかりました。このアイリード。命に替えても成し遂げます」

「それよかった。しかし用心せよ。このことに気付いている者がおる」

「それは・・・」

「密偵を使って探りを入れている者がいるのだ。その者たちをとらえたがすぐに自ら命を絶った。どうも盗賊団のことといい、陰で糸を引いているものがおる」


 ワスカ大臣はそう言ってからアイリードに近づき耳打ちした。


「まさか・・・」

「おそらくそうだ。しかし面と向かって問い詰めるわけにもいくまい。王様にもこのことは伏せている。証拠がそろえば王様の面前で糾弾するつもりだ。とにかくお前は準備を進めよ。優れた術者はこちらで用意する」

「はっ!」


 アイリードは頭を下げた。彼はこの任務の重大さに身がしまる思いだった。


 ◇


 数日後、ジークが喜び勇んでソミオの元に来た。


「おい、喜んでくれ。特別キャラバン隊の運び屋に選ばれたんだ!」

「そうか! それはおめでとう。やったな!」


 2人は抱き合い、飛び上がって喜び合った。


「出発はいつだ?」

「それが明日だ。ここを出発してまずエイスンの町に向かう。」


 エイスンは広大なジーダ砂漠への入り口である。ここを出ればあとは隣の国の町まで砂漠しかない。


「わかった。僕もエイスンに行くよ。そこで見送ってやるよ」

「ああ、ありがとうよ。これからの冒険を思うと胸がわくぜ!」


 そう言ってジークは鼻歌を歌いながら帰っていった。ソミオは親友がキャラバン隊に参加できるのがうれしいかったが、その一方で少し寂しい気持ちになった。もちろんジークとしばらく離れることもあるが、自分がそのキャラバン隊に加われないからだ。それでも、


「僕の分まで活躍してくれよ。ジークに神のご加護があるように。」


 と胸の中で祈っていた。

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