第1章20話:クレイシア



夕方。


この日は獲ってきたアサリを使って、アサリ料理を作った。


アサリの酒蒸し。


アサリのパスタ。


アサリのバター醤油焼き。


などなど。


それとサラダとビールをつけて。


いただきます!


「ん~美味しい! バター醤油とビールあうねえ」


アサリにしたたるバター醤油の香ばしいにおいと味わい。


キンキンに冷えた芳醇なビールと合わないわけがない。


絶対外さない組み合わせだった。


「パスタと酒蒸しもいいね。このアサリ美味しい」


名前はシオノアサリだったかな?


石ころみたいに落ちてて獲るのが楽なのに、こんなに美味しいとか反則でしょ。


私は舌鼓を打ちながら、アサリ料理を満喫する。






夜。


寝室にて、アイテムボックスを眺めながら、ぽつりとつぶやく。


「でも、これ、やっぱり半月も食材が持たないね……」


ルリアさんはたくさん食材を置いていってくれた。


とはいえ、次に彼女が来る半月は、きっと保たないペースだ。


何かしらの対策を考えないとね。


無人島で採取できた食材を中心に使って、ルリアさん食材は温存する方向でいこうかな?


そんなことを考えながら、3日目が終わっていった。





異世界生活4日目。


昼。


晴れ。


この日、新しい訪問者が現れた。


玄関の呼び鈴を鳴らされ、戸を開けると、一人の女性が立っている。


気の強そうな顔立ちをしている。


金髪の縦ロール。


まるでお嬢様のようないでたちだ。


「わたくしは、クレイシアですわ」


お嬢様のような口調で、彼女―――クレイシアさんはそう言った。


「アオイさん、今日はあなたの料理を食べに参りました」


「私の名前を知ってるんですか?」


「ええ。ルリアから聞きましたもの」


「ルリアさんの関係者……ということは」


「はい。わたくしも精霊ですわよ」


ふむ……


なるほど。


二人目の精霊の訪問者か。


「あの、どうして料理を食べに……?」


「それはですね、ルリアがあなたの料理を絶賛していたからですわ」


「ぜ、絶賛?」


「ええ。料理の天才に出会った、とか。精霊の料理よりも美味しい、だとか。わたくしに自慢なさるのよ?」


「は、はぁ」


「そんなに言うなら、わたくしも食べてみたくなるじゃありませんか。ルリアが認めた天才シェフの手料理を……ね」


いや、天才シェフって……。


あまりの過大評価に私はビビってしまう。


「あの……私は天才でもシェフでもないです。普通の凡人ですよ」


「あらあら、今のうちから予防線を張るなんて情けないですわよ」


「いや予防線とかではなく」


「ふふ……まあ安心なさい。人間の中では天才でも、精霊に比べれば凡民に過ぎないと、わたくしも理解しておりますわ」


クレイシアさんは肩をすくめながら言う。


「人間はしょせん、精霊より下等な生き物。それをルリアは必要以上に持ち上げて……いちいち大げさなのですわ。でも、まあ? それなりには期待していますから、こうしてまかり越したのです。ゆえに人間界代表として、恥じない料理を製作してごらんなさいね」


期待しているのかしてないのか、微妙な発言だ。


まあ、このぐらいの評価なら、最悪大した料理じゃなくても怒られたりしないだろう。


……。


……。


……というか、私が料理をこしらえる前提になってるね?


まだ作るって言ってないよ?


「さ、いい加減、立ち話も疲れてきましたわ。中に上がらせてもらいますわね」


「あ、ちょっと……!」


クレイシアさんが私の脇を通って、家の中に入ってくる。


ご、強引な人だな。






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