第1章13話:ステーキ



「オニオンソースをかけた牛肉ステーキです。どうぞ召し上がってください」


「ええ……」


私はルリアさんの前に料理を差し出す。


ルリアさんはステーキを驚いたように凝視していた。


そして何事かをブツブツとつぶやく。


「すごい美味しそうな匂い……いや、まだよ。見た目や匂いに騙されちゃダメ。しょせん人間の料理なんだから……」


「ナイフとフォークを使って切り分けてくださいね」


「わ、わかったわ」


ナイフとフォークを手渡す。


ルリアさんがそれを両手に持って、ステーキを切り始めた。


ひとくちサイズまで切る。


そして、切ったあとで手を止めた。


「……。……ッ」


やはり食べるのに抵抗があるのだろうか。


しばし、ルリアさんが逡巡していたが……やがて。


ステーキを口に運んだ。


「ッ!!?」


そして目を見開く。


「ええっ!? うそ、ヤダなにこれ!? 美味しい!!? ええええええ!?」


水を得た魚のごとくはしゃぎ始めるルリアさん。


それから夢中になって食べ始める。


目を輝かせ、顔も紅潮している。


「うそ……こんな料理、精霊界でも食べたことないわよ。こんなクオリティの料理を作れるなんて、あなた前世では宮廷料理長だったりする!?」


「いえ、違います」


ただの庶民です。


まあ、料理は作り慣れてるけど……プロやシェフみたいなレベルではない。


そこらの自炊レベルだ。


「私が渡した食材でここまでのものを作っちゃうとか、有り得ないわよ」


「あれだけ食材があればなんでも作れますよ」


「なんでも!!? それって他にもレパートリーがあるってこと!?」


「え? ええ、まあ。肉料理だけでもいろいろありますし、魚料理や麺料理とか、いろいろ作れますね」


「……」


ルリアさんは相当びっくりしたようだった。


そしてこんなことを言い出した。


「お願い! あなたの料理、毎日食べさせて! あたしにできることならなんでもするから! もっといろんなものが食べたいわ!」


「え……毎日? それは無理じゃないですか。だって月に2日しか来れないんですよね?」


「あうっ……そうだった!!」


ルリアさんは真剣に落ち込んでいた。


「ううう、仕方ないわね……じゃあ、次来た時は絶対作ってよ! 朝昼夜の3回ね!」


「はい。そんなに気に入ってもらえたなら、また腕によりをかけて作らせていただきますよ」


「やったぁ! ここに来るときの楽しみになるわ!」


ルリアさんが本当に嬉しそうにしていた。


ここまで喜んでもらえるなら、作った甲斐があるというものだ。

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