第13話 取り外されし歯車

 革命は成功した――。

 

 この国の総裁を辞任に追い込み。

 国民を抑圧した法は全て消し去られた。

 

 国会の前で革命軍のメンバーが。

 革命軍の国旗を高々と揚げて政府軍が敗れたことをアピールする。


「………」

 藤堂はその光景を他人事のように眺めていると柳が声を掛けにくる。


「どうしたんだ。そんな間の抜けた顔をして」

「……いや。なんか魂が抜けたみたいな感じがするんだ」


「なんだそれ」


「やるべきことをやったと言うか。もう、僕の役目は終わったとでも言うのだろうか」

 藤堂は自分でも解せない表情で言った。


「どういう意味だ?」

「悪い。言葉では上手く、言い表せそうにない」


「今日のお前何か変だぞ。昨日の戦闘で疲れているのか?」

「……そんなんじゃない」

 藤堂は気が抜けたかのように空を見ていた。


「まあ、お前の活躍は皆が知っているからな。お前も演説しろよ」

「演説?」

「ああ。革命軍の主要メンバーは皆、演説するんだとさ」

「特に言うことも無いよ」


「そう言うなって、一言でも良いからさ。着いてこい」

 柳に連れられて議事堂の前に行くと。

 そこには数万人にも及ぶ民衆がいた。


 革命軍のメンバーがこれからの国の在り方について述べており。

 それが終わるとマイクを手渡された。

 

 困惑したまま民衆の前に立つと。

 

 藤堂の声を聞こうと数万人は静かになり妙な静粛が周辺を覆った。

 

 藤堂はゆっくりと呼吸を整えてから話す。

「あー。皆さん集まっていただき有難うございます」

 

 何を話していいか分からずに社交辞令のように話し始めた。

 ただの社交辞令なのに真剣に聞いていた。


「そんなに真剣に聞かなくたっていいさ。もっと楽な姿勢で聞いてくれ、大したことは言えないだろうからさ」 


 藤堂は軽く笑ってから。


「これから新しい議会ができ、新しい議員が生まれ、新しい憲法が生まれると思う。だが、これだと。まだまだ不十分だと僕は思うんだ」


 藤堂の不十分と言う意味が民衆には分からずに困惑していると。


「何が不十分だって? そりゃあ勿論、皆の協力がないことさ。選挙権を貰えるだけで満足しちゃいけないよ。誰かの考えを真に受けて、何も考えずに投票してもいけない。自分の目で見て、自分の頭で考えて投票するんだ。どの立候補者も取るに足らないと思えば自分が立候補すれば良い。……皆が真剣にこの国の行く末を考え、心配し、そして苦難を分かち合う。それが出来れば、もっと、もっともっと、この国は良くなると思うんだ」

「………」


「柄にもない事を言っちゃったかな。取りあえず、聞いてくれて有り難う。……この国の行く末に祝福が有らんことを」


 数秒の静粛の後に数万人の拍手とトウドウと言う声援が響き渡った。


「「トウドウ! トウドウ!」」


 藤堂は自分に集まる声援と羨望の眼差しを受け止めていた。


 民衆からの賞賛の嵐。


 子供達からの羨望の眼差し。


 若い女性からの恋慕に似た視線。


 藤堂は天高く手を上げ。


 民衆からの声援に答えていると。



 一発の銃弾が広場の高台から響き渡った――。



 その銃弾は藤堂の胸に直撃する。

 周囲の光景がスローに見える。

 

 倒れている最中。

 

 先程までは歓喜に満ちていた広場は一瞬にて悲鳴に移り変わった。

 

 心臓は外れたようだったが。

 どこかの臓器を貫いたようで膨大な出血が溢れていた。


 柳は一目散に藤堂の元に走り声を掛ける。


「篤! 意識を保て! 目を閉じるな!」


「あ、ああ。大丈夫……だ」

 藤堂は必死になって作り笑顔を作る。


 だが、藤堂は本能的に知っていた。

 これは致命傷であり、手当しても数刻後には死ぬ事を。


「まだ、俺達の戦いは終わってはいない! ここからが始まりなんだ! だから死ぬな篤!」

「分かっているよ。国を壊す事よりも、作る方が何百倍も難しいことを」


「お前まで死んだら、俺は耐え切れない。だから絶対に死ぬな。お前は、俺の、俺の、大切な、親友なんだ!」

「……ふっ、少しは人間らしくなったね。柳さん」

「えっ?」


「笹原さんが亡くなってから柳さんが人形のように見えた。まるで感情が無くなった人形のようにね。このままだと確実に壊れるまで、死ぬまで、自分を許さないと思ったんだ。だから、だからね。貴方を助けようと……っ!」

 僕は口から漏れる血を少し手で抑えながら話す。


「もういい、喋るな! 出血が酷くなる」

「いや、今、話さないといけない。もう、僕の役目は終わったからね」


「役目だと?」


「そう。役目さ。人間には少なからず役割がある。それは人が作りだした役割かもしれないし、……時代が作り上げた役割かもしれない。……死が間近に迫った今ならわかる。僕はね。時代によって作り上げられた英雄なんだ。だから、その役割が終わった今……ここで消えるのは必然なのかもしれない」

「何を言って!」

「ふっ、所詮は僕も時代の歯車だったって話さ。皮肉なモノだろう。社会の歯車になる事を嫌っていた結果が、このザマだからね」


「いいや。違う! お前は、お前は歯車なんかじゃない! 仮に歯車だったとしても、その歯車は誰にも取り換えが出来ないお前だけの、お前にしか嵌らない歯車だからな!」

「……そう………だったら、いい……んだけどね」

 意識が失いそうになる。


 最後にこれだけは言っておかないと。

 彼が彼じゃ無くなる日にこの言葉を思い出して。

 また自信を持って前に歩ける為に。


「柳……さん。……君が信じる正義を歩んでくれ。………君の正義は間違っちゃい……ないのだ……か」

 その言葉を言い終わる前に藤堂の呼吸が止まった。


「篤ぃ!」

 柳の断末魔にも似た叫びは。

 民衆の悲鳴すらも斬り裂き。


 虚空の彼方へと消え去った――。

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