第12話 革命前夜
藤堂は数カ月かけて現地語に慣れ親しむ。
始めは警戒されていたが。
知らない間に革命軍の中心にいた。
柳曰く、異常なまでに人を引き付ける魅力があると伝えられた。
軍部政権の崩壊を目論む他国からの援助もあり。
最新鋭の武器が整いつつあった。
軍備も人材も不足していた浮浪のゲリラ軍は。
反政府軍と言って良いほどに整った軍に成り変わる。
そして遂に政府軍と本格的な戦闘を始める日が間近に控えていた。
柳は地図を指差しながら明日の作戦の説明する。
「さて、いよいよ明日こそがこの国を解放する日だ。この国の首都に一斉攻撃をかける」
「勝てるのか?」
藤堂は尋ねる。
「まともに軍と衝突すれば、兵力差により押し切られ負けるだろう。故に、二手に分けて軍の戦力を分担する」
「どう分ける気だ?」
「主部隊と奇襲部隊に分ける。まず初めに主部隊である我らが首都に攻撃を仕掛け。政府軍が前線に戦力を集中している隙を狙い。銃火器を主とする奇襲部隊が政府軍の後方から一気に攻め立てる。細かな作戦は有るが大筋はこの通りだ」
「ふぅん」
「この奇襲部隊を率いるのは……藤堂、お前に任せたい」
「はっ? どうして俺なんかが」
「ここにいるメンバーの総意だ。お前が思っている以上に、お前は信頼されている」
「……分かった。その任務引き受けるさ」
「装備は好きな物を持って行くが良い」
「ああ」
「……分かっていると思うが、この作戦、失敗は許されない」
「分かっている。死んでも成功させるさ」
藤堂はそう言って立ち上がり。
他国から流された最新鋭の武器を物色して武器を整えた。
藤堂は対戦車ライフルを選んだ。
「おいおい、随分と限定的な武器を選ぶんだな」
柳が少し茶化して言う。
「敵の主軍を無力化するにはこれ以上に適したモノはないだろう」
藤堂はそう言ってから奇襲部隊のメンバーに明日の作戦について説明する。
作戦決行の深夜――。
藤堂は二千の兵を率いて首都の後方に向かうために進軍した――。
しかし進軍途中で運悪く政府軍と鉢合わせする。
反射的に眼の前の敵を一掃せんと銃撃戦が始まった。
深夜におびただしい銃声が鳴り響く。
政府軍は数分で撤兵を開始する。
「トウドウ。このまま後方まで一気に向かうぞ」
仲間が興奮気味で言う。
「……」
藤堂は腑に落ちない表情でいた。
「どうした、はやく攻めるぞ!」
仲間が前進しているのをよそに、政府軍の動きを注意深く見る。
何かがおかしい――。
「……妙だ」
「何がだ?」
「…………っ! まさか!」
藤堂の脳裏に最悪のシナリオが過ぎった。
「どうした」
「っ! 引かせろ! 全軍引けェ!」
藤堂は必死な形相で叫んで進軍を止めた。
「なぜ引く!」
「説明している暇はない! 着いてこい! 全滅するぞ!」
奇襲部隊は困惑しながら攻撃を辞め。
駆け足で藤堂の後へ着いて行く。
柳が所属する主部隊は首都に進軍していた。
数千の銃弾が飛び交う中。
柳は二丁拳銃で確実に敵兵を狙撃し。
最小限の動きで最大限の成果を上げていた。
政府軍と比較して戦力が劣るために徐々に押され始めるが、それでも引かず。
一進一退の攻防戦が生じていた。
戦局は膠着しており。
予想以上に軍の抵抗は激しかった。
眼の前で死に絶える数多の人間。
そこには善も悪も存在しなかった。
ただ、各々の役割を全うする為に互いに殺し合う。
眼の前に手榴弾が投げられたため、柳は後方に下がった。
数秒後に爆発し黒煙が巻き上がる。
柳は徐々に押されつつある現状に焦りを抱く。
柳は拳銃に弾丸を詰めていると。
後方で銃撃戦が始まる――。
「なっ、背後から銃声だと! どうなっている!」
柳は後方に急いで向かうと。
そこには政府軍の大部隊が展開していた。
数千の兵が後方に回っていたのだ。
「囲まれただと! 伏兵か!」
柳は必死になってこの状況を打開しようと考えるが打つ手がなかった。
反政府軍の士気は激減しており。
皆が乾いた笑いを漏らす。
伏兵部隊は容赦なく柳の所属する部隊を攻撃する。
戦車の容赦ない轟音――。
無慈悲な続く機関銃の発砲音――。
反政府軍の抵抗も弱弱しくなり。
瞬く間に押されていく。
前進も後退も出来ない状況に追い込まれ、誰もが諦めかけていた最中。
けたたましい爆発音が響き渡った――。
戦車や機関銃を構えていた政府軍に向けて。
膨大な手榴弾が四方から投げられていたのだ。
そして爆発音が引き止んだ瞬間に数千の発砲音が響き渡る。
背後を取ったはずの政府軍は何者かの奇襲により混乱が生じる。
大量の手榴弾と機関銃の弾幕により。
政府軍を一時的に無力化させると。
次の脅威は数十台の戦車であった。
戦車部隊は困惑しながらも砲塔を動かし。
敵をあぶりだそうとしていると。
一発の発砲音が轟いた――。
その一発は対戦車ライフルであり。
その銃弾は戦車の装甲を貫き。
操縦者の一人を射止めた。
一台の戦車が止まるとすかさずにローケットランチャーが飛び交い。
戦車部隊に戦慄を走らせる。
政府軍は頼みにしていた戦車部隊と機関銃部隊が瓦解して士気が激減していると。
本格的な銃撃戦が始まる。
政府軍は夜間で数も分からぬ敵を相手するが。
森で囲まれた四方で幅広く展開するため。
どこにいるかが分からず。
瞬く間に制圧されていく。
柳は天からの助けが来たと思い、部隊の士気を上げる為に叫ぶ。
「今こそ好機だ! まずは後方の憂いを排除する! 天は我らの味方だ!」
柳は最前線に向かって発砲しながら突撃する。
政府軍の指揮系統は乱れており。
烏合の衆と大差がなく瞬く間に制圧されていく。
政府軍は無力化され。
柳は疲労と安堵感からか地面に膝から倒れると。
政府軍の伏兵を看破し。
無力化した人物が柳の前に現れて手を差し伸べた。
「どうしたんだ。いつもの余裕さがないぜ。柳さん」
藤堂は座っている柳に手を差し伸べた。
柳は軽く苦笑いしてから。
手を伸ばす。
「やはり、君か」
「わるいな。急に進軍を変えて」
「いや助かった。作戦通りだと確実に此方が全滅していた」
柳は懐からタバコを取り出し。
苦笑いしながら問いかける。
「しかし、どうして政府軍の伏兵が分かったんだ?」
「進軍途中で運悪く軍と出会った。その際に違和感を抱いたんだよ」
「違和感だと?」
「規則正しく撤兵した。……まるで、此方の進軍を知っているかのように」
「……まさか」
「ああ。その通りだ。俺達の動きは全て政府軍に筒抜けだったんだ」
「……仲間たちの中に裏切り者がいると言う訳か」
「残念ながらそうだろう。そうなれば政府軍は此方の脆い所を突く。そう主部隊の背後だ。だから急遽進軍を変えたんだ」
「……しかしながら、本来なら壊滅していた戦局を塗り替えるとは、君の活躍は英雄的功績だな」
「まあ、否定はしないさ。なんだって俺には英雄の才があるんだからな」
「はっ、そうだったな。……さて、馬鹿話はここまでだ。前線部隊の政府軍を無力化するぞ。伏兵が壊滅したことで指揮系統は混乱し。士気は激減している。それに反し、こちらの士気はお前のお蔭で爆発的に上がっている。一気に責め立てるぞ藤堂!」
「ああ、行こうか。柳さん!」
勢いに乗った反政府軍が一気に責め立てて首都の奪還に成功する。
軍を動かしていた総裁が生け捕りされ。
戦いは終わりを迎えた――。
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