第3話 紡がれる想い

「さて、篤君。これから予定はあるのかい?」

「いえ。何もありませんが」


「なら、親睦の印として軽くこの付近の案内をしよう」

「あ、ありがとうございます」

 柳に付いて行き。

 この付近の案内を受けた。 

 

 この町は比較的に治安が良く。

 窃盗などの被害に受けることは少ないと。

 そして、軍部の監視が強いために無暗に警察に頼らない様にとも言われる。

 

 小一時間かけてこの町の説明を詳しくしてくれた。

「まあ、こんな所だな。この町自体は安全区域だから危険は比較的に少ないよ。聞きたい事は有るかな?」

「柳さんは何処で泊まっているのですか?」


「私かい? 私は少し離れた遠方の村で生活している」

「へえ、行っても良いですか」


「ダメだ」

 冷たい声で言われた。

「ど、どうしてですか」


「私が住んでいるのは先住民族がいる村だ。この町と異なり軍部による弾圧が強い。危険だから来てはいけない」

「そ、そうなのですか」

 あまりの迫力に言葉が詰まった。


「ああ。それに此処に来た理由は、村の子供が欲しがっていた物を買いに来たんだよ」

「何を買いに来たのですか?」

「サッカーボールの材料さ」


「材料ですか? サッカーボールを買ってあげれば良いのでは?」

「サッカーボールを買うと、取り合いが始まり喧嘩になる。だから、材料を買って自らの手で作らせるのが一番良いんだよ。それに市販のサッカーボールは村では高級品だ、下手すれば大人に奪われて売られる恐れもある」

 そう言って、布とヒモを買い集めていた。


「布とヒモでサッカーボールが出来るのですか?」

「ああ出来るよ。そうだ、一つ作って見せようか」

 柳は近くの公園の椅子に座って慣れた手つきで作り始めた。


 布を何重も重ねて丸に整え。

 ヒモでしっかり括ると小さなサッカーボールが完成した。


 見た目は不格好であり。

 本当にサッカーボールとして機能するのかが心配になる。


「まあ、見ていてくれ」

 柳は布で作ったサッカーボールでリフティングを始めた。

 ボールは予想に反して規則正しく反発し。

 綺麗にリフティングが決まっていた。


「こんなものだね」

「サッカー上手いですね」

「私の技術より、このサッカーボールを褒めてくれ。我ながらうまく作れたものさ」

 柳は照れ笑いをしてから。

 サッカーボールでリフティングをしていると子供が集まって来た。

「……」

 子供が柳に向けて何かを言っている。

 

 柳は笑ってからサッカーボールで先程よりも高度なリフティングを披露し始めた。

 

 様々な技を披露してから、物欲しそうな目で見ていた貧しそうな子供にサッカーボールを渡した。


 子供は深く頭を下げてから。

 付近の子供とサッカーを始める。


「柳さん、何って言ったのですか?」

「ん? ああ。このサッカーボールを好きに使いなさいと言ったのさ。元々、私が作ったサッカーボールを村の子供に上げる予定はなかったから丁度良いよ」


「その大量の布で何個のサッカーボールが作れるのですか?」

「まあ、十個は作れるんじゃないかな」


「全く、柳さんは凄いですね。サッカーも出来るとは驚きましたよ」

「練習すれば誰でもできるさ。さて、暗くなってきたし、そろそろ別れようかな」


「あっ、そうですね……」

「どうしたんだい? 聞きたいことが有れば答えるが」

「い、いえ。また一人になると思うと心細くて」


「うーん。もし君が可愛い女性なら。君を死ぬまでエスコートしますよ。とか言うんだけどね。君が男だからねえ。うん、残念だよ。うん非常に残念だ」

「何が残念のですか!」


「冗談さ。……そうだねえ、なら電話番号を交換しないか? 気になったことが有るならいつでも電話を掛けてくれ」

「あ、ありがとうございます」

 ポケットの中から携帯電話を取り出そうとした際。

 一枚の折りたたまれた紙が零れ落ちた。


 何だろうと思って紙を拾い上げると、そこには今朝、売り子の女の子に貰った紙である事を思い出す。


 文字が読めないため忘れていたが。

 柳に見せたら訳してくれると思って見せてみることにした。

「柳さん、これには何が書いているのですか?」

「ん?」


 柳は紙を受けとると、ゆっくりと訳す。

「なになに。……二十時に公園前で待っています。もし私に興味が有れば来てください。だとさ」

「えっ?」


「何処で受け取ったんだい、この色男」

「そ、そんなんじゃないですよ。これは、商店街の客引きの女の子から貰って……」


「ふーん。で、行くのかい? この好色漢」

「い、いえ。行っても何するのかが分からないですし」


「まさか童貞かい? このチェリーボーイ」

「と言うか、さっきからだんだん中傷が直接的になってないですか!」


「冗談だよ。これがどういう手紙か知っているのかを聞いてみただけさ」

「どういう意味ですか? ま、まさか好意を抱かれたとか、僕って海外ではモテる容姿だったんですね!」


「いや、それはない。一回鏡を見てきなさい。私が言いたい意味が嫌でも分かるから。鏡見てショック死しないようにね」

「どれだけ、僕の顔を中傷するのですか!」


「まあ、気にするな、男は中身ではない。顔だから」

「いや、いや、このタイミングで言う言葉じゃないでしょう! 普通、このタイミングなら男は顔じゃないと言うべきでしょう!」


「まあ、私は顔が良いから、いつもモテていたがな」

「その爽やかな笑顔、凄く殴りたい。恩人だけど本当に殴りたい」


「はっははは。面白いねえ。久しぶりに笑わせて貰った」

「いや、僕は笑えないのですけど。寧ろ、泣きたいんですが」


「さて、そろそろ話を戻そうかな。その手紙の意図は売春だよ」

「えっ!」

「この辺りの女性は家族を養うために、お金を持ってそうな観光客に声を掛けて売春する事が多いんだ」


「そ、そうだったんですか」

「身体を売るのが一番手っ取り早くお金を稼げるからね。そして、そのお金を両親に全て渡すのが習慣となっている」

「……」

「だが、売春している女性は長生きできない場合が多い。病気に感染しやすいからね。最後は本当に悲惨なものだよ…………」


「そう、だったんですか」

「それ目当てで来る観光客も珍しくない。こういう国は物価が安いために二足三文で行為を行なえる事が多々ある。まあ、君はチェリーボーイだから大丈夫だろう。チェリーボーイは紳士気取って手を出さない場合が多いからね」

「う、五月蠅いですね。僕は純潔を守っているのですよ」


「まあ、行かない方が良いさ」

「では、断って来ます」


「断るとは律儀だね。着いて行こうか? どうせ会話も成立しないだろうし」

「えっ? 良いのですか」

「勿論さ。……少し、君に興味を抱いたからね」


「えっ? ぼ、僕に興味を持ったのですか」

 身体を守るように手を覆うと。

「いや、そういう意味じゃない。おいやめろ、その目なんか腹立つ」


「や、優しくお願いしますね」

「……うわ、ひくわぁ」

「マジなトーンで言わないで下さいよ! ボケただけですよ」

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