第7話 悪夢の夜
二度目のジェットコースターに乗ると、一回目と違い心の奥底から楽しめた。
どんな乗り物でも初めに乗った時よりも面白く。
心の底から笑ったのは久しぶりだった。
こんなにも楽しい時間があるなんて、今までの人生を振り返ってもないぐらいに楽しい時間が一瞬のうちに過ぎ去る。
最後の締めに乗ったのは観覧車だった。
少しずつ地面が遠のいていく。
二人きりの空間が出来た。
先程まではしゃいでいたが、誰もいない空間になると妙な気まずさが生じる。
互いに顔を直視できず。
外の景色を見ながら何気ない話をする。
「き、綺麗だな」
「そ、そうね」
互いの会話がギコチナイ。
こんな固い会話をしたことがないのに。
初めて話した時よりも互いの会話が固かった。
観覧車はゆっくりと頂上に近づいていく。
僕は此処で言わなければ言う機会がないため覚悟を決めて玲奈の顔を見た。
「れ、玲奈。聞いてくれるか」
「う、うん!」
お互いが頬を赤めて見つめ合う。
深く深呼吸してから声を大にして言う。
「大学が受かったら僕と付き合ってくれ!」
「……良いけど。それ死亡フラグだよ。それ言ったら落ちるよ」
玲奈は少し笑いながら返答する。
「玲奈こそ落ちるなよ。僕だけ受かっても意味がないからな」
「ふっ」
「「ふふふふ」」
僕と玲奈は観覧車の頂点で笑っていた。
僕はゆっくりと立ち上がって玲奈に近づく。
玲奈はゆっくりと目を瞑った。
「好きだよ。玲奈」
ゆっくりと唇が触れ合う。
柔らかく良い匂いがする。
キスはもっと生々しいモノだと思っていたが。
まるで恋愛漫画や小説の様に相手を包み込む甘いキスをした。
まるで時が止まったかのように感じる――。
出来ればこのまま止まってほしい。
この時が永遠なら良いのにと思いながら、ゆっくりと唇を離した。
「……私も好きだよ。ずっと昔から」
「えっ?」
「あっ!」
玲奈は口を滑らしたかのように急いで手を口に当てた。
「どういう意味?」
「……ないしょ。結婚したら教えてあげる。だから、大学に入ってからは、私に振られない様に、内面だけでなく外面も気を付けなさいね」
観覧車を降りると先ほどのキスの事が、共に頭に浮かんでおり気恥ずかしさで互いの顔をまともに見えなかった。
時刻は二十二時を回っており。
遊園地のあらかたのアトラクションに乗り終えたために帰路に着くことにした。
遊園地から出て人気が少ない河川敷を歩いていると一台のワンボックスカーが僕らの側に止まり、茶髪の男が下りてきた。
茶髪の男は僕らの前に立ち話しかけに来る。
「おっ。やっぱり可愛いじゃんか。こっちとら、さっき女に逃げられたから、寂しく野郎共とたむろっているんだ。ちょっと付き合えよ」
「嫌です。私には彼氏がいますから」
玲奈は触れようとしてきた不良の手を払った。
不良は舌打ちしてから僕の顔を見た。
そして顔見知りであることに気付き。
鼻で笑ってから言う。
「……って。お前、吹雪じゃねーか。こんな美人な彼女を手に入れるなんて随分と身の程が分かってねーな。二年前みたいな痛い目にあいたくねーだろう。さっさとソイツを寄越せ」
「断る」
「はっ、はははは!」
不良は高笑いしてから僕の顔面を思いっきり殴った。
鈍い痛みが頬に走る。
「吹雪!」
玲奈は心配するように僕に駆け寄る。
僕は玲奈の耳元でつぶやく。
「……逃げろ。僕が時間を稼ぐから」
「で、でも」
「こいつらが碌でもない奴は分かるだろう。金銭でも、話し合いで通じる相手でもない。……少しだけなら時間を稼げるから。その間に逃げろ」
僕は玲奈に精一杯の虚勢を張って言う。
「おーお。焼けるね。身を張って彼女を守ろうというのか」
「当たり前だろう。お前らみたいな奴らなんかに玲奈には触れさせない」
「ふん。また調教しなきゃいけないみたいだな。こいつに舐めた口がきけねぇようにしろ」
ワンボックスカーから不良の仲間たちが六人近く出てきた。
囲まれる前に僕は不良に言い放つ。
「一対一で勝負しろ。俺とお前のサシで勝負だ」
「あ?」
「何だ? 数人がかりでこなきゃ倒せないのか?」
「上等だ。やってやろうじゃねーか」
不良は得意気になって言い放つ。
そして胸元からナイフを取り出した。
「だが、俺は加減できねーんだ。死んでも知らねーぞ」
ナイフをちらつかせながら言い放つ。
僕は深呼吸して昔の経験を思い出すように構える。
「……問題ない。一対一なら負けはしない」
不良は僕の目が本気なのを見ると舌打ちする。
「……はっ、くだらねえ。俺が相手するまでもねぇ。てめーらやっちまえ!」
後ろに控えている不良仲間達が一斉に襲いかかってきた。
二人は昔やっていた武道経験からいなすことができたが、一人にタックルで動きが制限されるとそのまま袋叩きにあう。
足が動かなければ避けることも受け流すこともできず。
成すが儘に殴られ蹴られ続けた。
玲奈は不良に羽交い絞めにされており、ワンボックスカーに押し込まれていた。
「玲奈ァ!」
動けない体を無理やり動かそうとするが容赦のない暴行により体が動かない。
死に物狂いで数人の男を振り払い玲奈のもとに駆け寄ろうとした刹那――。
後方から鈍器のようなモノで頭を叩きつけられ気を失った。
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