第3話 大学受験
昼休憩が終わり五限の授業が始まる。
五限は英語だった。
先生はやる気がないのか、洋画の映画を見るだけの授業であった。
英語の字幕を追いながら映画を見る。
冗長な内容に疲れがたまり。
誰も見ている者はいなかった。
六限は古典である。
今日の内容は源氏物語だった。
簡潔に纏めると、日本最古のエロゲーだ。
姪を誘拐し。自宅に監禁して理想の女性に育て上げたり、
三親等の女性の殆ど関係を持つと言った現在のエロゲー顔負けの内容である。
感想としては、幼女から熟女まで受け入れる主人公の守備範囲の広さに感心した。
この日は、このクラスの不良が登校しなかったため比較的平穏に過ごせた。
帰りのホームルームが終わると玲奈が近づいてくる。
「じゃあ、本屋行こっか」
玲奈は早歩きで教室を出て行った。
僕は校門を過ぎるまで距離を取りながら後を追った。
付き合っている噂が流れると不良に絡まれて面倒になるためだ。
校門を超えて一般歩道に出ると並列して並ぶ。
少しばかり気まずい雰囲気になると玲奈が話をふってくれた。
「……そう言えば、いつもどんな本を読んでるの?」
「き、基本的にはラノベが多いかな」
「へぇ。私もラノベを読むことが多いんだ。特にハーレム物を見るのが多いかな」
「ハーレム物? 男がモテるのを見て面白いのか?」
「面白いわよ。だって、理由なく様々な美少女が惚れるのよ。内容が無茶苦茶すぎて滑稽で面白いわよ」
「で、でも、そう言う物だろう。女性は顔に惚れると言うだろ」
「冒頭の決まり文句は、容姿は普通。どこにでもいる学生だって書かれているのに?」
「……うっ」
「どこにでもいる学生が、どうやってハーレムを作れるのよ。その時点でおかしいわよ」
「いやあ、まあ性格に惚れたとか」
「節操なく、様々な女性に手を出す男に惚れる? 逆に聞くけど、様々な男にお尻を振る女性に惚れる?」
「惚れないな」
「そうでしょ。もう、それが可笑しくて、可笑しくて。内容が頭に入って来ないのよ」
口元に手を当てながら笑っていた。
「随分と偏った本の読み方をしているな」
「そうかしら?」
玲奈は首を傾げて言った。
「でも、鈴原がそんなに饒舌に喋るなんて思わなかった。普段は無口なのに」
「それを言うのなら貴方もでしょう。私も貴方がそんなに喋ると思わなかったわ」
「あの高校では無口が一番被害が少ない。沈黙は銀って昔から言うだろ」
「それを言うなら沈黙は金でしょ」
玲奈から冷静に指摘されて少し恥ずかしかった。
知的な所を見せようとしたが、それが仇になる。
玲奈は少し神妙な顔をして尋ねられる。
「……そう言えば、大学に進学するの?」
「僕が大学? 無理無理、行けるところなんてないよ」
「ふうん。でも、先月の模試、クラスでトップだったって知っているわよ」
「……あのなあ。クラスでトップって、此処の高校でトップを取ってもたかが知れてるだろ」
「クラスで一番頭が良いお兄さん。前の模試の偏差値は?」
玲奈は少し茶化すように聞きにくる。
ここまでお膳立てされたら答えなきゃ悪い。
「ふっ、四十二さ」
少し自信を持って答えると玲奈は笑いを耐えながら言う。
「よ、四十二って。……ぷっぷぷぷ」
遂に笑いが耐えきれなくなり、怜奈は大爆笑していた。
「なんだよ。笑うな! クラスで一番だから、少なくても怜奈より上な筈だからな」
「そ、それはないよ。だって、私は学校で模試は受けてないもん」
「なら、僕の不戦勝だ」
「……はあ。だから、学校では受けてないの」
玲奈は鞄の中から模試の結果を取り出した。
「どういう事?」
「予備校で受けたってこと。見てみる? クラス一位さん」
玲奈は自信満々に言ったため、その模試の結果を受け取って見ると見たこともない成績に目が点になった。
「へ、偏差値七十だって! 有名私大の合格判定A」
英語、国語、日本史の成績の三角形グラフが見た事もない程大きかった。
僕の成績表の三角形のグラフは米粒だったのに。
「これが私の成績。分かった? クラス一位さん」
「ど、どうして学校で受けないんだよ」
「学校で受けたら教師が私に過度な期待をするからよ。第一、私は高校の推薦で大学に行く気はないし」
玲奈は自慢気に言う。
「……自慢かよ」
「ええ。自慢よ」
玲奈は模試のプリントを鞄の中にしまう。
「……それで、本屋に何を買いに行くんだよ」
「参考書と過去問」
「……僕帰って良い?」
「ダメよ。だって、今日は貴方を勉強させるために本を買いに行くんだから」
「えっ? なんで? そこまで勉強しなくてもギリ卒業できるのに」
「なんでこんな底辺高でギリ卒業なのよ! って、そうじゃない! 私は貴方に大学に進学して欲しいの!」
「ぼ、僕が大学に進学!」
あまりにも突拍子のない提案に意味が読み取れなかった。
「そんなに驚く話じゃないでしょ」
「驚くさ。僕は大学に進学するなんて考えた事もないんだから!」
「えっ、どうして?」
「僕の学力で行ける大学なんかないだろ。この偏差値グラフ見てみろよ、米粒だぞ!」
「米粒よりも小さいわよ。ミジンコ並ね」
「うっ!」
「まあ、安心して。特別に私が教えてあげるから」
「えっ! 鈴原が教えてくれるのか」
玲奈は一瞬、苦い表情を見せてから微笑んで言う。
「……私、あまり姓で呼ばれるの好きじゃないんだ。だから下の名前で呼んで。玲奈って」
「えっ?」
「だから。玲奈って呼んでって言ってるの」
「れ、玲奈」
女性の名前を下で呼んだことがないため、始めて呼ぶ異性の下の名前を緊張しながら唱えた。
「よろしい」
玲奈は満足気に言った。
僕は少しばかり落ち着くと、どうして玲奈が此処まで僕のことを気にかけてくれるのかが分からず。ふと疑問を抱いた。
険しい表情をしていたのか、僕の表情を覗きこんだ玲奈が不思議そうに尋ねる。
「どうしたの? そんな真面目な表情しちゃって」
「い、いや。教えてくれるのは素直に有難いけど。どうして、そこまで僕にしてくれるのかが分からなくて」
「私が貴方を気に入ったからよ」
「気に入ったって?」
「……言葉通りの意味よ。そのまま受け取りなさい」
「僕に良い所なんかないと思うんだがな」
自分の良い点を探そうとしたが思い浮かばなかった。
顔もそこまで良いわけじゃない。
頭も良くない。
昔の怪我のせいで派手な運動ができずスポーツも人並み程度。
考えれば考えるほど自分の長所が出てこない。
「……貴方の良い所は、その朴念仁なことよ」
「朴念仁って何?」
「……はぁ。本当に大学までの道は遠いわね。思ってたより学力が低いわ。国語の語彙力が此処まで低いとは」
「褒めるなよ」
「褒めてないわよ馬鹿」
「だから言っただろう。僕が大学に行くなんて無理だって」
「いえ、意地でも大学に合格させてあげるわ」
「どうして僕にそこまで大学に進学させようとするんだよ?」
「さっき言ったでしょう。理由は受かったら教えてあげるって。……それに、大学に進学しなきゃ、面白くないでしょう。青春がこんな腐った高校しか思い出がないなんて笑い話にもならないわ」
「それもそうだが……」
僕が頬を掻いて悩んでいると、玲奈が少し怒りながら言う。
「ああ、もうジレッタイ。じゃあ、イエスかハイで答えて。私と一緒に大学受験するかどうか!」
「両方とも肯定じゃないか!」
玲奈の気迫に押されながら突っ込んだ。
今迄に大学受験なんて考えたこともないために玲奈の提案には驚いたが、好きな人に勉強を教えて貰えるんだ。否定する理由が一切浮かばなかった。
「れ、玲奈が教えてくれるのなら大学受験をしてみるさ」
「うん。なら今日から毎日、寝る時間を削って勉強ね」
天子なような笑みで、悪魔の様な言葉を言った。
「……えっ?」
「えっ、じゃないわよ。貴方の学力は中学、いや下手したら小学生レベルよ。寝る暇なんてあるわけないでしょ」
「睡眠時間が唯一の楽しみなのに」
「年寄りみたいなこと言わないでよ」
本屋に着くと玲奈は僕のレベルに合わせた受験参考書や問題集を数冊買わされた。
財布の中身が薄くなる。
「さて、本も買ったし、私の家に来て」
「どうして?」
「今日から放課後は私の家で一緒に勉強して貰うからね」
玲奈はさも当然の様に言う。
同級生の女の子の部屋に入ったことがないため少し気恥ずかしくなる。
「おっ、顔が赤いよ。照れてるのかなぁ?」
「そ、そんなことあるか」
僕は照れ隠しすることに精一杯だった。
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