第三章 霊視の才
第1話 傍観する学生
僕は真面目な高校三年生だ。
学校内の成績は中の中で容姿も中の中。
遅刻も欠席もしない。
どこにでもいる真面目な普通の学生だ。
唯一、普通の高校生と異なるのは通っている高校だろう。
僕が通っている高校は偏差値が低く。
不良が多い底辺高校だった。
苛めは当たり前にあり少年院に行く不良もいるほど荒れている高校だった。
この高校の学生は大きく三つに分かれる。
苛める学生。
傍観する学生。
苛められる学生。
僕は傍観する学生と言う立場に落ち着いた為。
苛めを見て見ぬふりをしている。
苛められる学生になると、毎日不良に好きなだけ殴られるのは勿論。
財布として扱われる。
それに耐えかねて不登校になると家に押し入れられ。
家財や家庭を荒らし家庭崩壊が招かれることが何度もあった。
此処までくると当然、警察は動くが不良にとって警察に連行されるのは勲章であり、褒め称えられることであった。
僕には苛めを止める力なんてなかった。
苛めを止めると、苛められる立場に堕ちるからだ――。
よく、TVのコメンテータが苛めを見て見ぬ振りをするのは苛めているのと同意義だと言うが、それは詭弁だ。
もし、苛めを止められるモノなら止めて欲しい。
その結果、どうなるのかを僕は知っているからだ。
入学当初に正義感が強い男子がいた。
武道経験者で喧嘩も強かった。
苛めを何度も止めており、不良も一対一では敵わなかった。
まともに喧嘩しても敵わないと悟った不良は数人がかりで奇襲して正義感の強い男子を袋叩きにし、両腕を折り一生を残る傷を付けたのだ。
僕はその男子を馬鹿だと思っている。
正義感なんてクソの役にも立たない。
それを僕は良く知っているからだ。
そして先生もクソの役にも立たない。
彼らは自分の生活を守る事に精一杯だからだ。
先生にとって重要なのは自分の職位であり、それを失いたくないために自分に被害が一番降りかからない方法を常に思案している。
如何に無難に授業を行い。
如何に無難に生徒に嫌われないようにするかに必死だからだ。
様々な不平不満を心の中で愚痴りながら、行きたくもない学校へと向かう。
校門にはスプレー缶で卑猥な言葉が羅列されていた。
見飽きた校門を超えるとタバコや空き缶などのゴミが校庭に散乱している。
綺麗な花々が咲くはずだった花壇はタバコの吸い殻に変貌しており。
校歌が書かれた石碑は半壊していた。
左右を見回しても不良がたむろっていなかったため安堵の溜め息が漏れた。
稀にたむろっているときがあり、下手に視線を合わせると絡まれるからだ。
不良が校門で溜まっていなかったため、今日の不安の半分が解消された。
校舎に入り、トイレを横切るとトイレには針が折れた注射器や、タバコの吸い殻、コンドームと言った多種多様なゴミが置かれていた。
見慣れたトイレを超えると自分の教室に着く。
生徒の半分は不登校と言う素晴らしいクラスである。
教室内には既に十人近くの生徒がいた。
僕はいつも、ある女子生徒を一目見てから自分の椅子に座る。
その女子生徒は眼鏡を掛けており地味であったが知的な感じがして密かに好意を抱いていた。
だが、僕は奥手なために声をかけた事はない。
目の保養として一瞬見てから自分の机に着く。
朝のホームルームまで時間があったためスマホを取り出して何も考えずに課金ゲームで頭の体操をしていた。
数分、遊んでいるとチャイムが鳴り響き。
担任が入って来る。
担任は眠たいのか、締まりのない表情でホームルームを始めた。
ホームルームの内容は隣のクラスの女子が妊娠したため、なるべく避妊する様にと言った内容である。
年に一度や二度聞く定例報告だ。
ホームルームが終わると一時間目の授業の用意をする。
一限は数学であった。
数学と言っても、やっている内容は中学の因数分解である。
因数を分解する前に不良を分解して欲しい。
むしろ、この高校を分解しろ。
二限は日本史。
頭が禿げた五十代のおっさんの朗読するだけの授業が始まる。
教科書と一字一句違わない内容を朗読するだけの授業だ。
女性声優が朗読してくれた方が確実に成績は上がる。
誰も朝からおっさんの朗読なんて聞きたくない。
朝は可愛い女性の声を聞いて癒されたいものだ。
三限は国語だった。
教師は自分に陶酔しており、よく分からないことばかり言っていた。
この著者が言いたいの何々であり、と述べている。
知らんがな。
お前が言いたいことだろ。
四限は理科。
化学式を暗記させられた。
水兵リーベ僕の船、七曲りシップスクラーク。
意味が分からない。
水兵のリーベ君が船を所持していたのは理解できる。
だが、七曲りシップスクラークって何だ。
何処を七曲がりするんだ。
シップスクラーク海道を七曲がりするのだろうか。
ねえよ、そんな海道。
沈没してろ。
四限が終わると魔の昼休憩に入った。
普通の学生なら昼休憩は歓迎すべきモノであろう。
だが、この高校では歓迎すべきものではない。
不良が暴れる時間であるからだ。
僕は昼になった為に、少しビクビクしながら鞄からお弁当を出した。
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