第15話 買い物デートと最強彼氏ムーブ
ううう、とんでもないミスをしてしまいました・・・まさか蘭さんのジュースを飲んでしまうなんて・・・
蘭さんは気にしないでと言ってくださいましたが・・・やはりなにかお詫びをしなければいけないと思うのですが、強制するのは逆に失礼ですし・・・どうしましょう。
一人で悶々と考えてしまいます。
僕らは、今アリモの専門店街を蘭さんとショッピング中。周りにはキラキラした服屋さんや雑貨屋さんが並んでいます。
そういえば僕こういう店をじっくり見るのは初めてかもしれません。あまり雑貨には興味がないですし、僕が基本的に行くのは突き当りにある本屋か家電屋さんですし。
誘ってくれた蘭さんには感謝しなければいけません。
「・・・難しい顔してるけど、まだジュースのことを引きずってるの?」
「ふぇ?あ、いえ。僕、アリモは結構来るんですけど、こういう店をじっくり見て回ったことがなくて。なので嬉しくて。」
「そうなの?確かにあんまり見て回る印象はないけど、もったいないなぁ。ここはいい店が揃っているというのに。」
「そうなんですか?」
「うん。少なくとも私好みのものは多いかな。」
蘭さんの好みのお店が多い・・・と。メモメモです。
「だから陽葵くんには着せ替え人形になってもらうよ?」
「なにがどう『だから』なのかわかりませんがいいですよ。」
「え、いいんだ?断られると思ってたんだけど。」
「慣れてますから。」
「・・・いいのかそれで。」
・・・ごもっとも。
―――――――――――――――――――――――――――――
服屋巡り中
「そういえば、陽葵くんは欲しい服ある?今だと、五分袖のシャツとか」
「えっと・・・ごぶそで?ってなんですか?」
「半袖・・・よりもちょっと長いのかな?二の腕が見えるくらいの長さの袖のことだよ。」
う~ん聞いたことない・・・ですね。漢字がちょっと思い浮かばないです。
「陽葵君は七分袖って聞いたことない?」
「あ、七分袖は聞いたことあります!」
七分袖!!そうか『ごぶ』って『五分』っていう字なんだ!!
「それの親戚だよ。」
「そんな言葉があるんですね・・・!勉強になります!」
「これからは神林先生と呼んでくれ。・・・うっ、でも同級生に先生って呼ばれるのは老けてるって言われてる気がして精神的ダメージが・・・」
「ウソでしょ?」
あなた10代というか同い年でしょ?女子高生がそんな行き遅れたOLみたいなこと言わないでくださいよ。
そんなこと言われて凹むような年齢じゃない・・・のかは人によって違うと思いますがいくらなんでも拡大解釈が過ぎますよ。
「ウソではない!!女性というのはいつも年齢と戦ってるんだ!」
「えぇ・・・蘭さんも?」
「いや?私まだ女子高生だし。」
「じゃあ今までの話なんだったんですか!?」
思わずズッコケそうになった。
「冗談だよ。陽葵くんがなにやらやけに緊張してるみたいだからね。」
「うっ」
見透かすような眼をする蘭さん。
痛いところを突かれてしまいました・・・だ、だってしょうがないじゃないですか!家族以外に服を選んでもらうなんてされたことないんですから!
そもそも女子と二人でお出かけなんて初めてですし!!
「しょうがないじゃないですか・・・その、お友達、というか、家族以外と二人きりでお出かけなんて初めてで・・・特に女子となんて・・・」
「・・・ほう?初めて?それは・・・男子を含めて?」
「そうです。ちょっと、小中でいろいろありまして。」
「・・・そうか。」
反応が思ったより薄かった。もしや知っている?どこで?
いや、莉心さんと仲がいいしもしかしたら聞いていたのかもしれない。
普段ならいい気はしないけど、この時ばかりは嬉しい。
「なら偶然にも私が陽葵くんの初めてを奪ってしまったようだな。」
「っ!?ゲホゲホ!な、何を言ってるんですか!?」
違った。やっぱりいつも通りだこの人!
多分無駄に冷静に返事してたのもいつも通りです!!いつもの王子様キャラ貫こうとしてただけでしょ絶対!!
「ん?何をむせてるんだ?私何か変なこと言ったかな?」
「変なことは言ってないですけど・・・は、初めてを奪うという言い方は良くないと思います!」
「何故?間違った言い方はしてないと思うけど?」
「含みを持たせた言い方をしないでくださいと言っているんです!」
全くこの人は!僕のことをからかって楽しいんでしょうか?
・・・楽しいんでしょうねぇ。
まあでも少なくともあの人たちに比べれば随分かわいいものですし、何より僕も楽しいですし。
・・・むっとはしちゃいますけど。
「さあ、着せ替えの時間だ。」
「え?・・・ここですか?」
やってきたのはCU。大手衣服チェーンです。
・・・蘭さんのことですしもっとこう、ファンキーなお店に連れていかれると思ってたんですけど、割と普通の店でした。
「拍子抜け、という顔だね。何か不満かな?」
「へ?あ、いやいや、そういう訳じゃなくて・・・思ったより普通のお店でびっくりしたというか。」
「ふふっ、いきなり変な店言ってもハードル上げるだけでしょ?」
「ま、まあそれは・・・はい。」
「だから最初はチェーン店の方がいいと思って。」
「・・・お気遣いありがとうございます。非常に助かります。」
そのまま着せ替えタイム。
蘭さんは真剣にこれが似合う。これはあんまり。と鏡と相談しながら色んなシャツとそれに似合うパンツを探してくれました。
おかげで随分疲れてしまいました。
蘭さんはいまだに『陽葵くんにはこの色が・・・』とか『ダボっとしているヤツより体の線が出るものの方が・・・』とか呟いています。
こんなに真剣に真剣に選んでもらったのは初めてです。
うちの家族、みんな感覚派ですし・・・
・・・そういえば。
「・・・蘭さんは、個性が強いお店にはあんまり行かないんですか?」
「うん?陽葵くんが思ってるような個性的なお店にも結構よく行くよ。今日は行かないだけ。いつか連れてってあげるよ。」
・・・嬉しいやら、緊張するやら。
「さて、ひと段落着いたみたいだしカフェでお茶でも―――」
と蘭さんが提案してくれたその時だった。
ゾクッ
妙に身に覚えのある悪寒が体を駆け抜けた。
「あーー!!陽葵じゃ~ん!!」
「え、ちょー久しぶりじゃね!?ww」
「隣の人だれ?まさかカノジョ!?」
「えまじ!?wwそんなわけなくね?」
厚化粧したギャル3人に絡まれた。
だけならどれほどよかったことか。
そのギャルが知らない人ならどれほど良かっただろうか。
「・・・ぇっ。ぁっ。」
な、なんであの人たちが・・・!
あの時の、あのトラウマが蘇る。
僕のことをかわいいかわいいと言っておきながら、散々虐められてきた記憶がフラッシュバックして、冷や汗が止まらなくなる。
足が震えて、顔を上げられなくなる。
「映画館で陽葵見つけてさ、追っかけてきたんだよね!」
「いやーマジ奇跡wwうちらと遊ばない?そんな奴ほっといてさ。」
「前みたいに可愛がってあげるし~ww」
好き放題言ってくる。
でも、どれだけ頑張っても反論できない。トラウマが邪魔して声も出せなくなる。それだけこいつ等には、苦しめられたてきたから。
「チンモクはコーテー、だっけ?黙ってるってことはいいよね!どこに遊びにいこっか~・・・そだ!カラオケとかどう?!」
「い~じゃん!うちらの攻めにどこまで耐えられるか勝負とかどう?ww」
「・・・おい。いつまでうつむいてんだよ。行くぞ。」
そしてそのうちの1人が抵抗できない僕の腕を無理やりつかもうと手を伸ばしたその時だった
「(ほう・・・こいつらか。陽葵を苦しめたのは・・・!!!!)」
蘭さんが何かつぶやいた気がした。
そして、ゴォッ、と効果音が聞こえそうなほど蘭さんの体から怒りのオーラが溢れ出した。
そして、蘭さんの体がブレたかと思うと、
ガシッ
「これ以上、私のものに手を出すのは控えてもらおうか。」
「・・・は?」
「・・・え?」
いつものイケメン顔をした蘭さんが、僕の腕に掴もうとした手をさらに掴んで止めていた。
その速さはとてもではないが一般人に出せる速さを超えており、そいつらも、僕も、そしてその場面を見た通行人も、驚きで目を丸くして固まった。
は、早すぎる・・・恐らく、僕含め全員には残像しか見えなかっただろう。
「ちょっ・・・おい!お前!!離せよ!!」
「陽葵くんに手を出さないと約束できるなら、離そう。」
そして、数秒ほど呆けていたそいつらが正気に戻ると、蘭さんを振りほどいて僕を持っていこうと暴れる。
しかし、蘭さんは全く動じた様子はなく、いつものすまし顔をキメている。
しかも手が振りほどかれる気配は一切ない。
・・・そういえばこの人、空手の達人なんだった。
「いいから離せって!!ちょ、何コイツ!マジウザい!!離せ!」
「聞こえなかったかな?陽葵くんに手を出すな、といったはずだが。」
「ウザい!!キショい!!いいから離せって!!」
「話にならんな。私は『ウザい』『キショい』と鳴くサルと会話するつもりはないんだが。ちゃんと人の言葉を話してくれないか?」
蘭さんの皮肉の効いた鋭い返しに観衆の一部が耐えきれず吹き出す。
そしてだんだん蘭さんの表情から笑みが消え、圧と冷たさが増しているような気がする。
気のせいかもしれな・・・いや気のせいじゃないなこれ。
「何コイツ、うっざ!!」
「てか誰だよお前!!陽葵に何の関係があるんだよ!!!」
「だれ?・・・陽葵の彼女だが、何だ?」
「・・・は?」
・・・・・・・・・・・・ふぇぇ?彼女?蘭さんが?僕の?
・・・いやどちらかというと僕が彼女で蘭さんが彼氏では?
・・・
・・・・・・
じゃなくて!!
僕が、蘭さんの彼女ってどういう・・・?うん?蘭さんが僕の彼氏?あれ?どっちだ?
ああもう!!変なところで詰まったせいで素直に喜べないじゃないですかぁっ!!
「はぁ・・・?ねえ陽葵!こんなやつ彼女じゃないよね!?ねぇ!?」
「こんな男っぽいやつ不釣り合いでしょ。絶対私たちの方がよくね?」
「てかこんなやつといて楽しいの?」
・・・・・・
・・・・・・さっきから黙って聞いていれば・・・蘭さんをこんなやつこんなやつばっかり言って下に見て・・・!!
お前らなんかよりよっぽど優しくてキレイで素敵な人なのに・・・!!お前ら如きに・・・ゴミみたいな阿婆擦れ如きに蘭さんを侮辱できる権利はない!!!
「ねえ!陽葵!!」
ああ、もう。うるさいな。
ブチッ
「・・・うっとうしいな。」
「・・・はぁ?お前、今なんて?」
「うっとうしんだよ阿婆擦れ共が。」
「・・・え?ちょ、陽葵?」
「蘭さんよりいい?どの口がほざいてる!?」
「っ!?」
「は?私たちの方がかわいくない?」
ははっ、とんでもないこと言うねぇ。
「じゃあお前らそのぶ厚~い化粧なしで外で歩く勇気ある?」
「え・・・それは」
「ちなみに蘭さんほぼ化粧してないからね?自分だけ武装して丸腰の人間と戦おうとして情けなくないの?」
「う、うぅっ」
「まあそれでも負けてるからすっごい滑稽というか痛々しいんだけどさ。」
「そこまで言わなくても・・・」
まだオブラートに包んだ方なんだけどなぁ。
「滑稽だよ。え、このビジュアルの差で自分の方がかわいいとかほざくの?蘭さんかっこいい系だけどそれでもかわいさで負けてるんだよ、それも圧倒的に。恥ずかしくないの?」
「うぅ、ぅぅぅぅぅうううう・・・ぐすっ・・・なんでそんなひどいこと言えるの!?」
でた。泣いて被害者アピール。かわいそうですね~化粧崩れるだけなのに。
なんて返そうか、と考えていると先に蘭さんが口を開いた。
「・・・なぜ陽葵がそんなこと言えるかって?お前たちがそこまで恨まれることをしたからだろうが!!」
「ひっ」
「陽葵の友人から聞いたが、私の陽葵を散々な目に遭わせてくれたみたいだな。それを棚に上げて被害者面して・・・!相当面の皮が厚いんだなお前らは!!」
蘭さんが怒ってくれたせいで少しクールダウンできた。
そして、僕はさらに怒ってくれようとする蘭さんを手で制止する。
「蘭さん。」
「え、いや・・・しかし―――」
「怒ってくれてありがとうございます。嬉しいです。でも、もう十分です。」
「・・・そうか。」
そして、僕は過去一真剣な目をして3人を見る。
「あなたたちには散々やられてきましたが、今回はそれを掘り返すような子供なことはしません。ですが・・・僕は今日あなたたちに対して何の感情も持てなくなりました。ですので、今後一切僕らに対して干渉してこないでください。」
「え・・・」
「次は虐めの証拠を用いてあなたたちを訴えます。二度はありません。以上です。」
「ちょ、陽葵!!」
はぁ、まだ来ますか。
「あ、そうそう。私からも1つ。私の陽葵を呼び捨てにしないでもらえるかな?・・・腸が煮えくり返るんだ。」
「ひっ・・・わかり、ました。」
・・・流石蘭さん。めっちゃ怖い。
そのまま、呆然とした3人を置いて、蘭さんに手を引かれ、僕らはカフェに向かうのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます