第12話 2人のおやすみ電話と蘭の覚醒

陽葵くんが帰った後。


私は陽葵君が腕の中で寝ていたという余韻に浸りながら、自分がまだ付き合ってすらないのに好きな相手を抱きしめたという事実に悶々としていた。



陽葵くんの髪の感触は鮮明に覚えているし、まだ体に陽葵くんの温かさが残っているような気がする。なかなか変態的に見えるかもしれないが、好きな子とあんなに刺激的なこと(なお相手は夢の中)をして変態的にならない方がおかしいというものだろう。



・・・わかってる。自分でもとんでもない考え方してるのはわかってるから突っ込まないでくれ。




それともう1つ、わかったことがある。


どうやら私は、陽葵くんを甘やかすことがどうもたまらなく好きらしい。


「はあぁ・・・もっとなでなでしたかったなぁ・・・」


今日もこれまで通り、いや、これまで以上になんだこのかわいい生物っぷりを発揮してくれた陽葵くんを、もっともっと甘やかしてあげたい。

その外見や年齢にそぐわないほど自立しているのも相まって陽葵くんが褒められることをしていると、

『すご~い!よく頑張ったねぇ!!えらいえらい』みたいな感じでよしよししたくなってしまう。すごく上から目線で失礼だが。本当に失礼だが。




いやぁしかし困った。


私にこんな強い欲求があるなんてわからなかった。

陽葵くんに会うまでは自分より強い人がいいとか守られたいとか甘えたいなんて思っていたんだが・・・まさか私がこんなに甘やかしたがりだとは。


いや、これは私が甘いんじゃなくて陽葵くんが甘やかされやすいのでは?




・・・割とあるかもしれないぞ?何せ生粋のめちゃかわ生き物だ。

彼と仲良くなった女性はもれなく、とはいかないまでも結構な割合で甘やかしたがりになるのではないか?


流石魔性の陽葵くん。恐ろしい子!!


・・・・・・



閑話休題。



陽葵くんが甘やかされやすいかどうかなんて正直関係ない。

問題は一度甘やかしてしまったことで会うたびに甘やかしたくなりそう、というか恐らくなってしまう。


今のところ明確な甘やかしチャンスなのは電車の中かな。特に混んでる時。

それに家近いし登下校の道のりも結構タイミング多いと思うんだよね。

あとは・・・ああ、お昼ご飯とか一緒に食べたらチャンスありそう。






・・・そう。こういうことをサラッと考えてしまうんだ。


しかも私の場合チャンス見つけたら割と思い切りよく実行に移しそうなのがなぁ・・・陽葵くんの前であんまり理性持たせられる自信ないし。


『なでなでぐらいならいいかな・・・』とか考えてやろうとしてる姿が容易に想像できる。


あとは重いものとか持ってあげたりとか・・・このまま行ったらしまいには介護に近いことになってそうだな。


・・・それは陽葵くんの尊厳を傷つけそうだから避けたい。




「はぁ・・・会いたい。」


声だけでも聴きたいなぁ・・・




ピロピロピロピロン・・・ピロピロピロピロン・・・


うわびっくりした。電話か?こんな時間(午後10時)に?


「誰だ・・・?」


画面を見るとそこには―――



《陽葵くん》



「陽葵くん!!!???」


あっそうか!おやすみ電話するとか言ってたわ!えほんとにしてくれるの?

いやまぁ私にはご褒美というか運が良ければ陽葵くんの激かわおねむボイスが聞けるから全然ウェルカムなんだけど・・・え、良いの?私君のこと狙ってるんだよ?そんな隙見せちゃっていいの?


っていやいや電話鳴ってるじゃないか!迷ってる場合か!!



「はい。もしもし」

『あ、もしもし陽葵です~!』


ああ天使。このちょっとテンションな高いご機嫌な声だけで既に天使。


「それで?連絡してきたってことは寝れないの?」

『そうですよ!蘭さんがホラー映画見せるから!』

「アハハ、ごめんね。興味あったんだけど1人じゃ見る勇気が湧かなくて」

『それでもです!次からは事前に教えてもらうことを強く所望します!』

「以後気をつけるよ。」


陽葵くんにかわいく責められてしまった。まあ陽葵くんが本気で怒ってないのは声でわかるし要求もかわいいものだ。まあでも、次からは事前にお願いしよう。(なお数秒前も事前の範囲とする。)



・・・というか気づいたんだが。


「それは、次から事前に教えたらまた一緒に見てくれるってことかな?」

『・・・勘のいい蘭さんは嫌いです。』

「嫌いになったら、どうなるの?」

『電話切っちゃいます。』

「わあああゴメンゴメン!じゃあ次私の部屋で映画見るってなったら、陽葵くんが見たいやつ見よう。」

『むう・・・それなら、まぁ。約束ですよ?』

「ああ。約束だ。」


よ、良かったぁ電話切られなくて。

ていうか、私が陽葵くんと電話したいのバレてる・・・?そんなことないよな?大丈夫だよな?


『・・・といっても、今寝れないのは怖いからじゃないんですけどね』

「あ、そうなの?」

『はい。その・・・お恥ずかしながら、蘭さんのお隣でお昼寝してしまったので眠くならなくて・・・ううう、すみません・・・』

「いやいや、それだけリラックスしてくれたってことだからね。嬉しいよ。」


実際私にとってもご褒美だったからね。


『ほんとですか?ご迷惑じゃなかったですか?』

「全然。なんなら寝に来てもいいんだよ?」

『そ、そんなことしません!』

「ええ~?残念だなぁ。」

『むむむ・・・』


今は冗談ぽく言ってるけど、実は本心だからね?♡

今回はぎゅーだけだったけど・・・次は、添い寝しようね♡♡♡



そのあと陽葵くんと今日の出来事をたくさん話していたら、いつの間にか通話時間が1時間を超えていた。久しぶりの長電話だ。


つまり現在午後11時。もう寝る時間だ。


『うぅん・・・眠くなってきました・・・ふあぁぁ・・・』

「そうだね。もう寝る時間だしね。」

『はいぃ・・・久しぶりによふかししましたぁ・・・』

「じゃあ、電話切るね。」

『うぅん・・・やれす。まら切りたくないぃ・・・』

「!!!???」


い、今のは・・・・・・!?????


『まらまらおはなししたいのぉ・・・』

「そうか・・・でも、君が寝るまでって約束だからね。」

『ううう・・・わかりました。まだねたくないけど・・・』

「フフフ、いい子だ。じゃあ・・・おやすみ」

『おやすみなふぁい・・・』


ツー、ツー、ツー・・・



ふう・・・まさか最後にとんでもない爆弾を持ってくるとはね・・・


陽葵くんのおやすみボイス、やっぱりとんでもない破壊力だったな・・・


よし、もう決めた。もう我慢しない。








陽葵くんをたっくさん甘やかして、恋人にして見せる・・・♡♡♡♡





―――――――――――――――――――――――――――


ここからは甘さマシマシ気持ち固めスキンシップ多めで参ります。

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