第11話 神林家と陽葵君のお菓子 後編


「お、美味しすぎる・・・なんだこれは。」

「う~~~ん、美味しい!!陽葵さん凄いですね!!!」

「気に入っていただけて何よりです。」


私は今、妹の澪と陽葵くんの手作りお菓子を味わっている。






のだが。


なんだこれは。めっちゃ美味いんだが?・・・いや私の全力より軽く数十倍は美味いんだが!?


なんだろう。なんというか・・・女子としての自信を無くす。

別に私、自分のこと女子力あるなんて思ってないはずなんだがな・・


「・・・陽葵くんは、いつもこのレベルのものを作っているのか?」

「へ?いつもですか?・・・いやいやいやいや、そんなことないですよ!」


手を両手の前でブンブ振り、頭も横にブンブン振って否定する


そんな否定する?・・・もしかして普段はすごく手抜きしてるのかな?悪いことじゃないんだけど、なんか気になっちゃうな・・・


あとブンブン否定するのめっちゃかわいくね?てか一々かわいいなこんちくしょういいぞもっとやれ(?)


「今日は気合を入れて作ってきました!」


フンス、と力を入れるそぶりをする陽葵くん。だからなんでそんな一々かわい(以下略)


というかなんだこのかわいい生き物は。反応というか仕草がかわいすぎるんだが?一々かわいすぎてキュン死しそうになるんだが?なんなら全部写真にしてアルバム作りたいんだが?




・・・そうだ。


陽葵くんをめちゃくちゃに甘やかしてあげたらどんな反応をしてくれるんだろ・・・♡♡


ぞくぞくっ、という甘い痺れと共にそんなことを考えてしまい、どう甘やかそうか考えようとしたところで我に返る。


・・・好きとはいえ関係性はただの友達に何を考えてるんだ私は。


そんなことを考えている間も食べる手は止まらない。

美味しすぎて話すのももったいなく感じてしまい、澪と無言で食べ続ける。

真においしいものはリアクションさえ出来ないのだ。


止められない、止まらないとはこういうことだったのか・・・と頭の片隅で関係なことを考えつつ、陽葵くんのパウンドケーキを食べる。


どれくらい時間が経ったかわからないが、気が付けば全部無くなっていた。

ああ・・・至福の時間だった。


「あ~美味しかった!」

「ああ。すごく美味しかった。」

「・・・お口に合ったようで良かったです!お皿とか下げてきますね!」

「あ・・・」


それをお客様にさせるわけには・・・行っちゃった。


てか陽葵くん若干引いてなかった?でも引く要素なんてどこにも・・・


と、空になった器を見る。





そこで1つ疑問が浮かぶ。


・・・あれ?陽葵くん結構な量作ってくれたよね?全部食べ切っちゃった?いやいや、両親とか辰巳さんの分を残したはず。でも3人合わせてもそんな量なかったよね?・・・もしかして私たち、めっちゃ食べちゃった?


・・・マズい。これはマズい!!脂質を取りすぎた、のは筋トレすれば済むか。私高身長で筋肉多いからカロリー消費量多いしなんとかなるし。じゃなくて!そんなことよりも確か大食いの女の子は引かれるってどこかに書いてあった気がするぞ・・・これは、これは非常にまずい!下手すれば一発アウトだ!!


「・・・なあ、澪」

「・・・!・・・!」


妹の方を見ると、私と同じことに思い当たったのか青ざめていた。


「・・・お姉ちゃん。」

「・・・なんだ?」

「筋トレ・・・付き合ってくれない?」

「え?ああ、うん。そうだな。2人で頑張ろう。」


『あ、そっち。』という言葉を何とか堪える。

澪も水泳をしているから太るなんてことはないと思うんだが・・・どうやら罪悪感に押しつぶされそうになってるらしい。筋トレ自体は私もするつもりなので、+α分を澪と一緒にやるとしよう。




・・・じゃなくて!私が気にしてるのはそっちじゃなくて!!!

陽葵くんに食べすぎだろとか思われたら私生きていけないんだけど!!?


「お二人ともよく食べたわね?」

「うるさい。」

「今猛省中だからそっとしてくれ・・・」

「ああ、責めたいわけじゃないのよ。神戸くんが喜んでたから伝えておこうと思ってね。」


・・・喜んでた?陽葵くんが?


「・・・そうなの?」

「ええ。『ちょっと驚いたけど、あんなにおいしそうに食べてくれるなんて作り手冥利に尽きます』って。あと『脂質は大分控えめにしてるからこれのせいで太ることはないと思う』って。」

「「良かった・・・」」


私は陽葵くんが喜んでいたことに、澪は恐らくカロリー控えめであることに安堵する。良かった~引かれてなくて。


「ああ、あと『次はもっと作った方がいいかな』って呟いてたわよ?」


・・・・・・




「ええええええ!ど、どうしよう!?よ、良くないよね?」

「・・・うん。丁重にお断りしよう。」

「何故断るの?これおいしいのに・・・あ、もしかして胸焼けしてる?」

「「食べ過ぎるの!」んだ!」

「あらあら。」

「あの~、呼ばれた気がしたのですけど・・・?」


陽葵くんがタイミングよく戻ってきたので、もし次に作ってくれる時があってもこの量で十分だから増やさないでほしい旨を丁重にお願いした。


そしてみんなでスプラトゥ〇ンで遊んでスナイパー陽葵くんの圧倒的エイムスキルにみんなで感動したり、人狼で遊んだら全員上手すぎて誰を吊るのか結局運ゲーになってしまったり。






・・・・・・


そして今。


なんやかんやありまして。


「わぁ・・・こんな感じなんですね。トロフィーがいっぱいです・・・!」

「よく女子っぽくないって言われるから参考にはしないでほしいけどね。」


陽葵くんが私の部屋にいます。2人きりで。

・・・2人きりで!!(大事なことなので2回言いました)




え?大丈夫?襲っちゃわない?理性持つ?主に私の。


小っちゃくてかわいくて純粋な私の好きな相手と2人きりだよ?

さっきからめちゃくちゃ甘やかしてあげたくてウズウズしてる相手だよ?

今は密室じゃないけど、内側から鍵かけて密室にできるんだよ?

なんならキスなりハグなり添い寝なり物理的に出来ちゃう状況なんだよ?


・・・・・・こんなの理性持つだろうか、いや持たない(反語)



その陽葵くんは、さっきから目をキラキラさせながら私の空手のトロフィーとか賞状とかを熱心に鑑賞している。

・・・あんまりじっくり見られるとなんか恥ずかしい。


「へええええ全国大会優勝・・・!すごいです!!」

「あはは、ありがとう。まあ、たまたまだと思うけどね。」


嘘です。3連覇してます。


「そんなことないです!蘭さんはすごい頑張ったと思います!実力です!」

「そういってもらえると嬉しいよ。」


なんて外面はクールぶってるけど内心かわいい連呼して狂喜乱舞である。


陽葵くん、目キラキラさせてる・・・かわいいっ!!なんかこう純粋な少年のかわいさがあってめっちゃかわいい。というか陽葵くんトロフィーそんなマジマジ見ちゃうタイプなんだ・・・♡♡しかも成績見るたびにびっくりしてるし♡♡あ、またびっくりした。かわいすぎる・・・♡♡♡♡

ああなんかもうかわいいしか出てこないんだけど!!?



もはや魔性のショタだよこの子!!


しかも頑張ったって言ってくれた・・・♡よぉし!これからも頑張るぞー!

このままインハイも連覇だーーーー!!!!


・・・



閑話休題。


「それで、何の映画見よっか?」

「あ、そうでした。」


そう。実は私の部屋には映画を見るために来ていたのだ。

・・・まあ陽葵くんの反応を見るにトロフィーとかに気を取られて忘れてたみたいだけど。でもそんな反応もかわいい。


「すっかり頭から抜けちゃってました・・・すみません///」

「!!!あ、ああ。大丈夫だよ。こんなにトロフィーが並んでる部屋なんて滅多にないもんね。仕方ないよ、うん。」



ああああああああ!恥ずかしがってる陽葵君かわいいいいいいいいい!!!

いちいち反応も表情もかわいすぎるんだって!!もうマジでキュン死するってこの子!!


「見たい映画・・・う~ん、蘭さんおすすめの映画ってあります?」

「私のおすすめ?う~ん・・・恋愛ならこれ、アクション系なら・・・これかな。コメディならこれとこれ・・・あ、あとホラーなら・・・これくらいかな。なに見たい?」

「ホラー以外で。」

「じゃあホラー見ようか。」

「なんでですか!!?」


いやあ・・・なんでって言われても怖がる陽葵くんが見たかったというか、私も怖いの得意じゃないから1人で見たくなかったというか・・・


「蘭さん意地悪です!!僕ホラー以外でって言ったじゃないですか!!」

「いやぁ、実は私もホラーは苦手でね・・・」

「じゃあ猶更なんでホラーなんですか!?」

「だから、1人じゃないときに見たいんだけど、周りに付き合ってくれる人があんまりいないから・・・ね?」


陽葵くんの良心につけこむようで悪いんだけど、私もこういうときじゃないとホラーを見る勇気が湧かないんだ!


「ぼ、僕だって付き合いたいわけじゃ・・・」

「頼むよ。一緒に見てくれないかな?」

「わ、わかりましたよ・・・じゃあ!もし寝られなくなったら・・・」

「寝られなくなったら?」

「おやすみ電話に付き合ってもらいます!!僕が寝るまで電話です!!」

「・・・・・・」


陽葵くん君・・・とんでもないお願いをしてくるね?


知ってる?私君のこと好きなんだよ?好きな子に就寝前の甘々ボイス聞かせるとか、もしかして私を依存させるつもりだな?そうだな?そうじゃないと辻褄があわないな?


というかむしろそうであってくれ。



というかそんな無防備であることが心配なんだが?え、もしかして他の子にもそんなこと言っちゃうタイプ?・・・いや待て。確か莉心ちゃんが言ってたぞ。私のことはかなり信用してくれてるって。そっか。そうだよな。誰にでもするわけじゃないか。陽葵くんが私を信用してくれているんだ、私も陽葵くんを信用しなくては。



それはそれとして、おやすみ電話はとんでもないご褒美であるとともに割とマジでキュン死するぞ?普通に死ねるぞ?

まあでも、これはホラー映画に誘った罰だ。謹んでかわいいの破壊光線を食らうとしよう。


「じゃあ、始めるよ。」

「は、はいぃ・・・」









映画を見ること2時間。エンドロールが流れている最中。


とあるハプニングご褒美イベントが起きた。


それは・・・


ぽてん

「ん?」


2人ともホラー耐性がないのでお互いくっついて観ていたのだが、突然右腕に何か重いものが乗っかった感覚があった。


なんだ?と思ってテレビから視線を外すと。


「すぅ・・・すぅ・・・」

「・・・・・・」


そこには天使の如き寝顔を惜しげもなく披露する陽葵くんがいた。


は?おやすみ電話で陽葵くんの寝顔想像しよとか思ってたら本物が目の前にいるんだが?なんなら思った以上に天使だし私の腕を枕にしているのもあって割と心臓がやばいんだが?


いや~しっかしどうしよう。このままだと腕が痺れて感覚がなくなるのは目に見えている。まあこの天使の寝顔を見れるなら甘んじて受け入れられるんだが、若干見にくいし何より甘やかせない。


しかもホラー映画中は恐怖で大人しくなっていた私の欲がここに来て出てきてしまい、陽葵くんを抱っこして背中をポンポンしながら頭なでなでしたい衝動に駆られる。



理性!おい理性!!仕事しろ!!


「すぅ・・・すぅ・・・むにゃ。」スリスリ


り、せ・・・いいぃぃぃぃぃぃ・・・・・・




プツン


・・・こうなっては仕方ない。元はと言えば私の前で隙を見せるのが悪いんだ。私だって欲はあるんだぞ。まあ、いきなり襲うほど低俗ではないし、そんなことする勇気なぞ微塵もないんだが・・・甘やかすとなれば話は別だ。



「起きるまで・・・起きるまでだから・・・ごめんね。ぎゅーってしちゃうね?♡」


そーっと、そ~~っと、陽葵くんの腰を私の脚の間に持ってくる。そして陽葵くんの体を私にもたれかかるように調整して顔は息がしやすいように横に向けて・・・これで良し。


身長の関係で、ちょうど陽葵くんの顔が私の無駄に大きい胸に収まり、私の鼻先につむじがある状態になった。



そしてこの状況が非常に心臓に悪いのだ。


頭がちょうどなでなでしやすい位置にあるし鼻先から陽葵くんのなんかめっちゃいいにおいが直に襲ってくる。そして胸やらお腹やら脚やらから伝わってくる陽葵くんの私よりちょっと温かい体温。




なんかもう極楽の一言に尽きる状態だった。


もっとわかりやすく言うと。


陽葵くんの体温かいし柔らかいしなんかいい匂いするし髪サラサラだし寝息かわいいしあと私の胸にちょうど収まってる感じが母性本能めっちゃくすぐられるしあああああああああああ死ぬ!!!



って感じである。


しかも、私の胸が寝心地いいのか知らないけど若干陽葵くんからも体重と頭をこっちに傾けてくれているのも愛情があふれてヤバイ。


背徳感と合わさってもうヤバイ。






そのあとなんだかんだ30分くらい抱きしめて、陽葵くんが起きそうになった時に慌ててもとに戻した。


陽葵くんは寝ちゃったことをめっちゃ謝ってくれたけど、私としては人生で5本の指に入る至福の時間だったので謝る必要は全くない。なんならもっと寝てほしい。


そんなことを言えるはずもなく、そのあとすぐお別れした。


ああ・・・極楽だった・・・もう今日お風呂入りたくない。





「お姉ちゃ~~ん!!筋トレ手伝って~~~~!!」



・・・・・・忘れてた。

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