第10話 神林家と陽葵君のお菓子 前編

今回と次回は蘭さんの目線のみになります!



――――――――――――――――――――――――――


ああ、楽しみだ・・・楽しみすぎて朝2時間以上早く起きてしまった。

こうなることを見越して昨日1時間早く寝ていてよかった。


現在AM5時。まだ外は暗い。


まあ、なんだ。私は、その、遠足とか旅行前に眠れなくなる人間なんだ。

それが嫌で小さいころはなんとか遅くまで寝ようとしてたけど、小4くらいから諦めて早く寝るようにしてたな。


最近はちゃんと寝れるようになってたんだけど・・・はぁ。どんだけ陽葵君と会うのが楽しみなんだ私は。


昨日も会ったじゃないか。まあ雨宿りとはいえ家に招けたし、しかも湯上りの陽葵くんも見れたし髪も拭けたし頭撫でれたし。まあぎゅーはできなかったけど・・・





・・・・・・そう思えば結構大胆なことしてたな私!!??


い、いやまぁ?雨宿りで家に招くのはまあいいとして・・・それ以外のことって普通は付き合ったり、もしかしたら結婚したりしないとできないものだよな!?

頭撫でるのはカップルだし、頭拭くとかもはや夫婦だろう!!


いくら大胆でも限度があるぞ私!!



「・・・・・・///」


ま、まあ・・・それで陽葵くんが意識してくれるなら私はいくらでも・・・い、いや別に意識してもらうためにやった訳じゃないんだけどさ!

それでも、意識してくれるならそれに越したことはないというか・・・


ううぅ。だってだって、陽葵くんのこともうどうしようもならないくらい好きになっちゃったんだもん!ひ、一目惚れしちゃったんだもん!




・・・・・・


陽葵君が来るっていうのに早朝から何てことを考えてるんだ私は。


「・・・水飲もう。」

取り敢えず火照った頭と顔を冷やさなくては。



のどを潤すのに冷たい水があまり良くないのは知っているので普段はあまり飲まないが、今回ばかりは助けを借りようと思う。


ん?なぜ電気がついている?・・・待て。誰かいる。こんな時間に誰だ?

・・・まあ私に言えたことじゃないんだが。


「・・・・・・」

「・・・・・・」


か、母さん!!??な、なんでこんな時間に起きてんの!?


「あら、おはよう。」

「あ、ああ。おはよう。」


一応紹介しておくと、私の母は私からさらに甘さと人情味を無くしたような人物だ。超仕事人間で、ただひたすらに効率を求める。しかもそれが家でも抜けてない。私も澪も正直言って苦手である。


「な、なんでこんな時間に・・・?」

「あら、別にあなたには何の関係ないわよ?ただ、蘭の友達が来るそうじゃない。それで家が汚れていたらみっともないでしょ。」

「それで掃除を?・・・こんな時間から?」

「ええ。昨日夫にお願いしてたのに、あの人ったら『辰巳さんに伝えるの忘れてた』って。はぁ、全く。」


母は父のことを名前で呼ばない。それが母の冷たさを助長させている。

一度父に聞いたことがあるが、『照れ隠しだよ』と言われた。・・・とても私にはそうは見えない。




だが、蘭は知らない。


蘭の母、怜のこの行動は本当に照れ隠しであることを。彼女は旧家のお嬢様で、家でそれはそれは厳しい規律のもと生活させられていた。しかし、政略結婚ではあるがそこから救い出してくれた神林家、もとい蘭の父に一生の愛を誓っている。実際2人きりの時はラブラブなんだそうな。だが、それを子どもに見せるのは、怜の両親がしていなかったこともあるが、非常に恥ずかしいため、とてもじゃないができず、冷たい態度をとってしまう何ともかわいい奥さんなのだ。

しかも、子供のことも溺愛しており、今日早起きしたのも初の異性の友人が

出来た蘭とその友達のために恥ずかしい思いをさせないために早起きして頑張っているのである。態度には出さないが行動に出すタイプのめっちゃ家族思いのいいひとなのだ。態度には出ない(出せない)が。


蘭と澪には早くわかってほしいものである。




「それで?蘭は何しに来たの?」

「え?ああいや、水を飲みに。」

「そう。びっくりさせちゃってごめんなさいね。」

「ああ、いや。大丈夫だ。」


というかもう頭冷えたから飲まなくていいのでは?

まあいいか。飲んでも困ることないし。


母はまだ掃除する気のようだ。しかも掃除機を使わずに箒で掃除している。

いったいなぜそこまでするんだ?

いや、別のことを考えよう。私は今重大な問題に立ち向かっている。



それは・・・着る服何にするか問題だ。


なんっで昨日から考えておかないかなぁ私!!!陽葵くんが明日も来るってなって浮かれて部屋掃除してなんでそのまま寝ちゃったんだよぉ!!


こうなってしまっては仕方がない。澪の力も借りて・・・はっ!今何時だ?


時計は5時半を指している。


・・・こんな時間から妹を起こしに行く迷惑な奴がいるかバカ!!まずは自分で考えろ!!・・・いや、でも私そんなセンスあるわけじゃないしなぁ。

妹とか母の方がずっとあるし・・・でも妹は朝早くて聞きけな・・・ん?



母?・・・そうか!母さんがいる!!あっでもあの人今は掃除中・・・いやでも案外お願い聞いてくれるし・・・聞いてみるか。



「あの~母さん。」

「あら?どうしたの?」

「情けない話なんだけど・・・服選ぶの、手伝ってくれない?」

「え?・・・はぁ。なんで昨日のうちにしておかないの?彼が来るって部屋の掃除してたじゃない。」

「め、面目ない・・・」

「まあ、迷うのは仕方ないわね。いいわよ。クローゼットの中見ちゃうけどいい?」

「ああ。ありがとう!」


そうと決まれば早速、とばかりにスタスタ私の部屋へ向かう。

先ほど母のことを『苦手』と言ったが、『嫌い』と言ってないのはこういうちょっとしたお願いにも応えてくれるからだ。


足りないものがあったら買ってきてくれたり、服を買うとき一緒に考えてくれたり、私たちの要望をよく聞いてくれたり。理不尽に怒ることもないし、結果が良くなくても『学んだことがあればそれで十分だ』と過度に期待をかけてくることもない。


冷たく感じるけど、決して悪い人じゃない。それが母に対する私たち姉妹の印象だった。


「う~ん・・・まず蘭は、その子にどう思ってほしいの?綺麗?かわいい?かっこいい?・・・はたまた悩殺したいとか?」

「の、悩殺はまだ早い!!な、何を言って・・・」


わ、私が、陽葵くんを悩殺・・・などっ・・・!!

する勇気もないし、は、はしたない女とみられて終わりだ!!


うううううう・・・時々爆弾突っ込んでくるからなこと人・・・



・・・


・・・・・・ふう、よし。真剣に考えよう。


綺麗と思ってほしいか、カッコいいと思ってほしいか、かわいいと思ってほしいか・・・それなら。


「綺麗、かな。」

「そう。なら、こういう服はどう?」

「ああ、なるほど。ならこういうのと組み合わせて・・・」



審議の結果、清楚系ワンピースが選ばれた。

そして、母さんと30分ほど服選びをしてわかったことがある。


「なあ母さん。」

「どうしたの?」

「なんで、私が陽葵に好意があることを知っているんだ・・・!?」


そう。何故かこやつ母さんは私の恋心を知っているのだ。

え、なんで!!?なんで知ってるの!?い、いや、確かに?陽葵くんの頭拭いてるときとかにいれば?気づいてもおかしくはないと思うんだけど・・・


あれ誰にも見られてないはずなのに・・・!!

誰かがこっそり見ていたとかか?


「え?そんなの見ればわかるじゃない。」

「見ればわかるのか!!??」

「30分前あなたは私の『悩殺』になんて返したの?」

「え、えぇ?『まだ早い』って・・・・・あ」

「・・・特に恋愛感情のない男子になら、『そんなことするはずない』って返すと思うんだけど?」

「・・・・・・ソウデスネ。」


やっちまったあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!






・・・・・・そりゃバレるよ。


「まあ、悩殺と言っても性的なものだけが悩殺とも限らないしね。」

「え?」

「要するに彼を夢中にすればいいってことじゃない?男は単純だから性的なものが一番効果的なんだろうけど、あなたほどの容姿なら別に性的なことをしなくても可能だと思うわよ?」

「な、なるほど・・・?」


まあそれを悩殺と定義するのかは知らないけどね、とちょっとお茶目に締め括った母は、


「頑張って夢中にしてみなさい。」

「あ、ああ。わかった。」


私にエールを送ってくれた。やっぱりいい人だとは思うんだよなぁ・・・


でも、いまだに覚えている。授業参観の時に、他のクラスメイトの保護者はみんな笑顔で談笑してるのに、母さんだけ真顔だったこと。

もともと忙しいらしくあまり構ってもらえなかったが、あの真顔が怖くてそこから一気に『冷たい』という感情を持つようになったことを覚えている。


まあ、いいか。陽葵くんが来るのは午後だ。あと・・・6時間くらいある。




・・・6時間?そんなにあるのか・・・・


まあ、それまでゆっくりしておこう。


あああと、お昼ご飯はシンプルなうどんがいい辰巳さんに言おう。




――――――――――――――――


そわそわ・・・


そわそわ・・・そわそわ・・・



・・・・・・


なぜ私がこんなにそわそわしているかというと。


現在午後12時半。もうすぐ陽葵君が来る。陽葵くんが来るんだ!!


いつ来る・・・?いつ来る・・・?




ピーンポーン


「!」


「はい。」

「あ、辰巳さん。神戸というものです。」

「お待ちしておりました。すぐにお迎えいたします。」


来た!!!


「お邪魔します。」

「お待ちしておりました。」

「ようこそ神林家へ!!」

「お招きいただきありがとうございます。えっと、あなたは・・・?」

「蘭の妹の澪です!中2です!」

「これはご丁寧に。神戸陽葵と申します。」


あ、陽葵くんがこっち見た―――


「あ、蘭さ・・・へ?」


な、なんだ?陽葵くんが固まったぞ?

や、やっぱりこの服装似合ってなかったか!?


「えっと・・・似合ってる、かな?」


陽葵く~ん何でもいいからリアクションをくれ~・・・


「・・・へ!?あ、はい!とっても!!」


ブンブンブン、と顔を真っ赤にして肯定してくれる陽葵くん。かわいい。

小型犬を見ている気持になってくる。失礼だけど。


「(良かったねお姉ちゃん!)」

「(あ、ああ。)」


妹よこんな時に意地悪するんじゃない!


「え、えっと、その、こちら、昨日のお礼です!」

「それはそれは、ありがとうございます。・・・中を見させて頂いても?」

「大丈夫ですよ」

「恐縮です。おや?これはパウンドケーキですか?しかも出作り・・・?」

「はい!手作りです!」

「!?」


て、手作り!?陽葵くんってスイーツ作れるの!?

た、食べたい・・・!


「・・・陽葵くんは、弁当を自分で作ってるって言っていたが・・・お菓子も作れるのか・・・?」

「はい!基本おやつも自分で作ってます!」

「ええぇ・・・?」






なんだこの女子力は。



―――――――――――――――――――――――――――


怜の日記



今日の早朝、蘭に一緒に服を選んでほしいと頼まれた。嬉しい。


最近蘭に意中の相手が出来たことは辰巳さんから聞いていた。

昨日雨宿りのため家に寄ったそうだが、謙虚でよくできたかわいい少年だったそう。澪が拗ねていたのは澪が帰る前にお暇したらしく、会いたかったのになんで引き留めてくれなかったのかと怒っていた。かわいい。


辰巳さんが言うには、その男の子は謙虚でよくできた少年だが、背が低く非常にかわいらしい外見とのことだが、本人は蘭の高身長と同様にコンプレックスに思っている節があるらしい。気になる。


その子が今日うちに来るらしいので、家の環境のせいで嫌われて落ち込むのは見たくないため、朝から掃除した。疲れたがやり切ったと思う。


蘭の人を見る目は信頼している。ただ、あの子のタイプは屈強な男性と記憶している。そこから何故かわいい系の男子になるのか。気になる。

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