第68話「海水浴」

 夏真っ盛り、昼間の暑さはとんでもないことになっていた。

 毎日のように最高気温がどうとかニュースで聞くと、げんなりしてしまう。

 そんな暑い毎日の中、今日は特別な日だった。何かというと、先日火野から連絡があって、みんなで海に行かないかと言っていた。そして今日行くことになっているのだ。


『ちょっと遠いけどさ、みんなで行ったら面白いと思うんだよな』


 火野の提案に賛成した僕は、すぐにみんなに声をかけた。今日は僕と火野の他に、絵菜、真菜ちゃん、日向、高梨さん、長谷川くん、舞衣子ちゃんの、ある意味いつものメンバーが集まることになった。

 駅前に集合ということで、集合時間に遅れないように駅前に行く。まぁ僕が一番近いので、遅れたらみっともない……と思っていたら、先に火野と高梨さんがいた。


「おーっす、朝から暑いなー」

「やっほー、ほんとだねぇ、どうにかならないのかねぇこの暑さは」

「おはよう、ほんとに暑いね、でも海なら気持ちいいんじゃないかな」


 三人で話していると、絵菜と真菜ちゃんがやって来た。


「あ、三人はもう来てたのか」

「みなさまおはようございます! 今日はお誘いしてくださってありがとうございます」

「いえいえ、みんなで行けば楽しいからね、あとは日向と長谷川くんと舞衣子ちゃんか」


 その後すぐに、日向と長谷川くんと舞衣子ちゃんが一緒にやって来た。


「よっしゃ、みんな集まったな、今日は楽しもうぜ!」


 火野が声を上げると、みんなが「おー!」と言った。

 駅前から電車に乗る。去年の七夕の日、絵菜とデートしたときに行ったあの駅まで行くことになる。南の方へしばらく乗り続けないといけない。でもみんなと一緒なので、話しているとあっという間のように感じた。


「団吉、私、今日のために新しい水着買った」

「あ、そ、そうなんだね、それは楽しみかもしれない……あはは」

「あー、お兄ちゃん、今スケベなこと考えたでしょー、これだからお兄ちゃんはいけないねー」

「まあまあ、お兄様も大人の男性ですね、仕方ないと思います」

「団吉さんも男だね……うちも仕方ないと思う」

「え!? ちょ、ちょっと待って、なんで僕だけこんなに責められないといけないの……」


 恥ずかしくなって俯くと、みんな笑った。うう、どうして笑われてしまうのか……。

 そんなこともありながら、目的の駅に着いた。前に来た時と雰囲気は変わらなかった。


「くぁー、あちぃなー、早く海に飛び込みたい気分だぜ」

「そだねー、海水浴場だから人もけっこういるみたいだねぇ。あ、あそこに着替えるところあるな、女性陣はあそこに行きますかー!」


 高梨さんを先頭に、絵菜、真菜ちゃん、日向、舞衣子ちゃんが女性の更衣室へと向かった。残されたのは僕と火野と長谷川くんの男三人だ。


「俺らはバスタオル巻いて着替えることにすっか、ずれないようにしねぇとな」

「そうですね、そうしますか。でも火野さんはさすがですね、全身がっちりしていてうらやましいです」

「いやいや、長谷川くんもけっこう鍛えてるじゃんか。この前までサッカーやってたから当たり前かもしれねぇが」


 火野と長谷川くんがそんな話をしている。うう、二人はスポーツマンだから筋力もあるな……僕のしょぼい身体とは違う。くそぅうらやましい……。

 男性陣は着替えるのも早い。荷物はまとめて一か所に置いておくことにした。


「みんなで交代しながら、ここに誰かいた方がよさそうだな」

「そうだね、盗難とかあったら大変だしなぁ」

「そうですね、女性陣が来たらそのことも話し合いますか」

「やっほー、お待たせー、意外と舞衣子ちゃんが胸が大きくて綺麗でさー、みんなでキャーキャー言っちゃったよねー」


 男三人で話していると、女性陣がやって来た。

 ……素晴らしい光景に、男性陣は言葉を失っていた。


「お、おい、団吉、長谷川くん……」

「ひ、火野、言わなくても分かる……」

「そ、そうですね、ここは天国ですかね……」


 背が高くてスタイル抜群な高梨さんはもちろん、絵菜も新しい水着を買ったと言っていたが、白を基調としていてフリルが付いた可愛らしいものだった。日向と真菜ちゃんもそれぞれ黒と赤の水着でなんだか大人っぽいし、舞衣子ちゃんはたしかに胸が大きい……普段は服に隠れていたのか……って、僕は何を考えているのだろう。


「団吉、どうかなこれ……前は黒い水着だったから、今度は白にしてみようと思って」

「あ、う、うん、とても似合ってるよ、可愛いというか……あはは」

「あーっ、お兄ちゃんが絵菜さんの胸とお尻ばかり見てるー! まぁ仕方ないか」

「まあまあ、お兄様、私もなかなか大人の身体になってきましたよ」

「団吉さん、うちもいいと思わない……?」

「え!? あ、み、みんな綺麗だよ……目のやり場に困るというか……あはは」

「あはは、日車くんも男だねぇ。荷物はこのあたりに置いておけばいいかな?」

「あ、うん、誰もいなくなったら盗難とか怖いから、交代で誰かいることにしようかって、さっき火野と長谷川くんと話していたところだよ」

「そかそか、そだねー、じゃあ一人は寂しいから、二人残ることにしますかー。そしてちょくちょく交代することにしようー!」


 高梨さんがそう言うと、みんなが「おー!」と声を出した。話し合いの結果、最初は長谷川くんと日向が荷物の番をすることになった。


「よっしゃ! 飛び込むぜー!」


 火野がダッシュで海に飛び込んでいく。ドボーンという音とともに沈んだ後、顔を出した。


「あー、陽くんずるい! 私もー!」


 続いて高梨さんも海に飛び込む。あの二人はさすが、運動ができるだけあって泳ぐ方も完璧のようだ。


「団吉、行こ」

「お兄様、行きましょう!」

「団吉さん、遅れてるよ……飛び込むと気持ちいいと思うよ」

「う、うん、行くから、そんなみんなで引っ張らないで……!」


 絵菜と真菜ちゃんと舞衣子ちゃんに引っ張られて、僕も海に飛び込んだ。今日も日差しは厳しいが、海の水は冷たくて気持ちがいい。潜ったり浮かんだりを繰り返す僕だった。


「ビーチボール二つあるからさ、一つは長谷川くんと日向ちゃんに渡しておいたぜ。俺らはこっちで遊ぼうぜ」


 火野がそう言ってビーチボールをぽーんと放り投げた。それを絵菜と高梨さんが泳いで取りに行く。


「あーっ、くそぅ、絵菜に負けたー!」

「ふふっ、優子にはなんでも負けっぱなしだから、たまには勝たせて」


 夏の青空の下、海水浴を楽しむ僕たち。たまにはこういう日常もいいのではないかと思った。

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