第69話「夏の思い出」

 僕たちは、海で思いっきり楽しんでいた。

 今日も暑いが、海に入っていると気持ちがいい。泳いでみたり、絵菜とどれだけ潜れるか勝負したり、みんなも笑顔だった。


「お兄様、楽しんでますね!」

「うん、真菜ちゃんも楽しんでる?」

「はい! 水が冷たくて気持ちがいいです!」


 真菜ちゃんはそんなに泳げないため、今日も浮き輪をしてぷかぷかと浮かんでいる。その光景も可愛らしいなと思った。

 その横で、すいすいと泳ぐ日向がいた。


「ぷはーっ、気持ちいいねぇ!」

「お、おう、日向はさすがだな、水泳部に入ればよかったのに」

「それも考えたんだけどねぇ、西中のトビウオのままでいようかなって!」


 な、なんかよく分からないが、今が楽しければそれでいいか。


「団吉さん、海って気持ちいいね……」

「うん、舞衣子ちゃんも楽しんでるみたいね」

「うん、小さい頃に両親に連れてきてもらったことある……でもその後はケンカばかりでどこにも連れて行ってもらえなかったから」


 舞衣子ちゃんが少ししょんぼりした顔になったが、すぐに笑顔になった。以前は悲しいことがあったかもしれないが、これから楽しい思い出を作っていけばいいのではないかと思った。


「団吉、火野と優子と交代してこようか」

「ああ、そうだね、あの二人もまだまだ楽しみたいだろうし」


 僕と絵菜が海から上がって、荷物のところへ行く。火野と高梨さんがいたので交代しようと声をかけたら、二人は何かを食べていた。


「あれ? 何か食べてるのか?」

「ああ、すぐそこでホットドッグとか焼きそばとか売ってたから、買ってきたぜ」

「そーそー、みんなも呼んでくるからさ、食べよ食べよー」


 火野と高梨さんが他のみんなを呼んで、みんなでお昼ご飯を食べることにした。ふとスマホを見るとお昼を過ぎていた。もうそんなに時間が経っていたのか。


「いやー、楽しいな! 海も気持ちいいしさー。ただ、一気に日焼けした気がするぜ」

「今日もいい天気だもんねぇ、日焼け止め塗っててもあまり意味ないしねぇ」

「真菜ちゃん、後で浮き輪を私が泳いで押してもいいかな?」

「あ、うちもそれやる……」

「うん! 二人に押してもらったらすいすい泳いだ気分になりそう!」


 みんなが楽しそうだ。周りには人もそこそこいるが、ぎゅうぎゅうという感じでもない。みんな海を楽しむ気持ちは一緒のようだ。


「お兄さん、この後は休憩ですか?」

「あ、うん、僕と絵菜がここにいるから、長谷川くんも楽しんできて」

「はい! ちょっと日向と水泳勝負してきたいと思います!」

「あ、健斗くん言ったねー、負けた方がジュースおごりね!」


 そんなことを話しながら、長谷川くんと日向が走って海の方へ行った。


「よっしゃ、俺らも楽しんでくるぜ!」

「そだねー、真菜ちゃん、舞衣子ちゃん、行こ行こー、お姉さんがいいことしてあげるよー、ふふふふふ」

「た、高梨さん、やっぱり危ない人みたいだよ……」


 火野たち四人も走って海の方へと行った。残ったのは僕と絵菜だ。


「絵菜も、楽しんでる?」

「うん、楽しい。団吉と一緒にまたここに来れたのが嬉しい」

「ああ、そうだね、去年の七夕のときにあそこに行ったよね」


 僕はそう言って指さした。その先にあるのは高台にある公園だ。あそこで夜空の星たちを眺めながら、二人でいい時間を過ごした。


「うん、あの時すごく嬉しかった……団吉が考えてくれて、連れてきてくれたのが」

「あはは、僕もネットの知識だけだったけど、実際に来てみるとよかったね。また色々なところに行ってみようか」

「うん、団吉と一緒なら、どこに行っても楽しい」


 絵菜がそう言って、僕の肩に頭を乗せてきた。ちらっと絵菜の方を見ると、綺麗な胸の方に視線がいってしまい、勝手にドキドキしていた……僕も男なんだな。


「この水着、よかったかも。ちょうどよくて、白というのが気に入った」

「そ、そっか、それはよかった……ぼ、僕はどこを見ればいいのか分からないけど……」

「ふふっ、団吉ならどこ見てもいいんだよ。胸触ってみる?」

「え!? い、いや、それはやめておくよ……みんなもいるし……ん? みんながいるとかいないとか関係あるのかな……」

「じゃあ、二人きりになったときに、また」


 絵菜が僕の右腕にきゅっと抱きついてきた。あ、ああ! 胸が腕に当たっている……! 神様、ここは天国ですか……。


「あーっ、お兄ちゃんが鼻の下伸ばしてるー! もースケベなんだからー」

「あはは、まぁ団吉も男ってやつだ。仕方ねぇんだよ」


 日向と火野がやって来て、そんなことを言った。


「え!? い、いや、何もないよ……あれ? めずらしい組み合わせだな」

「うん、火野さんと私が交代するから、お兄ちゃんと絵菜さんはもう少し楽しんできて!」

「おう、もうちょっといいだろ、来たからには十分楽しんでいかないとな」


 二人と交代して、僕と絵菜はまた海に飛び込んだ。やはりこの冷たさが気持ちいい。向こうでは高梨さんと舞衣子ちゃんと長谷川くんが、浮き輪につかまった真菜ちゃんをくるくる回していた。だ、大丈夫かと思ったが、真菜ちゃんは「あははははー」と楽しそうだったので、まぁいいのだろう。

 その後絵菜とゆっくり泳いだり、十分に楽しんだ僕たちは、日が傾く前に帰ることにした。ここはちょっと遠いので、早めに帰るようにした方がいいだろう。


「いやー楽しんだな! めっちゃ焼けたぜー」

「そだねー、たまにはこうやって遊ぶのもいいんじゃないかなー」


 火野と高梨さんが笑顔で楽しそうだ。


「お兄様、楽しみましたか?」

「うん、めっちゃ楽しかったよ。真菜ちゃんも楽しかった?」

「はい! 泳げないながらも海を楽しむことができました!」

「ああ、日向に負けてしまった……恥ずかしい……」

「ふっふっふー、西中のトビウオ健在だね! 健斗くんにジュースおごってもらおーっと!」

「団吉さん、絵菜さん、楽しそうだったね……あ、団吉さん、うちの胸見た? けっこうあるでしょ」

「え!? あ、う、うん、びっくりした……あはは」

「……団吉?」

「ああ! い、いや、見えてしまったのでどうしようもないというか……ご、ごめん!」

「ふふっ、団吉も男だからな、胸が気になるのもしょうがない」

「な、なんかそれもどうなのかなって思ってしまうね……」


 その後、帰りの電車の中で、みんな爆睡したのは言うまでもないだろう。

 これも夏の思い出として、僕たちの記憶に残ることになるのだろうな。

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