第65話「妹のお泊まり」
土曜日、今日は日向がうちに泊まりに来ると言っていた。
僕は最近サボっていた部屋の掃除をすることにした。散らかったままの部屋を見られて「お兄ちゃんはこれだからいけないねー!」とか言われたらたまらない。ものを片付け、掃除機をかけて、キッチンも綺麗にする。
ピンポーン。
その時、インターホンが鳴った。見ると日向が一人でいたので、「玄関の鍵開けてるから入って来て」と伝えてオートロックを開けた。少しして日向が部屋に入って来た。
「おじゃましまーす! おお、お兄ちゃん掃除してたの?」
「ああ、キッチンを綺麗にしておこうと思って。日向は座っててくれ」
「へぇー、お兄ちゃんさすがだねぇ、もっと散らかしてるかと思ったよー」
あ、危ない、部屋を片付けておいて正解だった。日向は綺麗好きだからな……。
「コーラでもいいか?」
「うん、ありがとう!」
僕はキッチンの掃除を切り上げ、コップにコーラを注いで、日向に差し出した。
「しっかし外は暑いねー、地球温暖化? ってすごいんだなー」
「まぁ、毎年暑くなっていってる気がするよな。日向は課外授業ちゃんと受けてるか?」
「うん、学校行くのがしんどいけど、勉強しておかないとね。今度、梨夏ちゃんとテスト勝負しようって話してるからね」
「そうなのか、梨夏ちゃんも頑張ってるんだなぁ」
そういえば梨夏ちゃんも生徒会のお仕事が終わった頃だろう。自分のことをふと思い出していた。
「あ、そういえば、九十九さんの弟くんのところ、真菜ちゃんと梨夏ちゃんと一緒に遊びに行ってるよ! 康介くんは『いちいち来るな……!』っていつも言ってるけど。可愛いねぇ」
「ああ、そうなんだね、もしかしたらお姉ちゃんと何か話してるかも」
「そうだねー、康介くんもお姉ちゃん大好きだもんねぇ。もうちょっと離れないと九十九さんが自由に恋愛できないような」
「……ん? 誰かさんは高校三年生になるのに、兄にくっついてまわってるな?」
「さ、さぁ、誰のことでしょうか……そ、そんなことはいいから、お母さんがバウムクーヘン持たせてくれたから、一緒に食べようよー」
日向が袋からバウムクーヘンを取り出した。どこのものだろうか、あまり見たことがないパッケージだった。
「お、ありがとう。なんか見たことないパッケージだな」
「うん、お母さんの会社の近くにお菓子屋さんができたらしいよ」
「そうなんだな、じゃあいただきます」
日向とバウムクーヘンを食べてみる。甘い味が口に広がって、美味しいなと思った。
「あ、これ美味しい」
「ほんとだねー、甘さもちょうどよくて美味しい! 何個でもいけそうだよー」
「おいおい、食べ過ぎると太るぞ」
「お、お兄ちゃん! 女の子にそれは禁句ですよ! もー女性の心が分かってないねー」
日向に頬をつんつんと突かれた。あ、さ、さすがに妹でもそれは禁句だったか……申し訳ない。
「あ、ご、ごめん、まぁ女性の心はよく分からないんだけど……」
「これだからお兄ちゃんはいけないねー、まさか絵菜さんに太るとか言ってないでしょうね?」
「え!? い、いや、それはない……あはは。あ、夕飯カレーでもいいか? 材料がちょうどあるので」
「あ、うん! お兄ちゃんが作るカレーかぁ、久しぶりだなぁ!」
嬉しそうな日向だった。カレーで嬉しくなってくれるならありがたい……というのは日向に失礼だろうか。
しばらくパソコンでお笑いの動画を見ながら、二人で笑っていた。「このコンビ面白いねー、笑い過ぎて涙が出てきた」と言っている日向だった。
夕方になって、僕はカレーを作る準備をする。今日は拓海に教えてもらったキーマカレーだ。拓海秘蔵のレシピを見ながら、あれこれと準備を進める。横から日向がのぞき込んできた。
「あれ? なんか普通のカレーじゃないっぽいね?」
「ああ、拓海に教えてもらった、キーマカレーだよ。拓海には日向も去年の学園祭で会ったな」
「ああ、あのイケメンのお兄さんかー! へぇー、すごいねぇ!」
レシピを見ながら作っていって、ご飯がもうすぐ炊けそうだな……と思っていたら、ピーピーと炊飯器の音が鳴った。ちょうどよく炊けたようだ。お皿を二つ用意して、ご飯とカレーを盛る。日向はよく食べるからな、これくらいはいけるだろうとちょっと多めにしてあげた。
買っていたサラダと、唐揚げをお皿に移して、テーブルに持って行った。
「よし、ちょっと早いけど食べるか」
「うん! いただきまーす! あ、カレーめっちゃ美味しい!」
「ひ、日向は食べるの早いな……ま、まぁいいか。美味しいならよかったよ」
僕もカレーを食べてみる……うん、拓海の家で食べたカレーと同じような味がした。美味しくできたようだ。
「お兄ちゃんと二人で夕飯食べるの、久しぶりだね。前はお母さんが遅いときとか、よくあったよね」
「ああ、そうだな、まだ数か月なのに、もう懐かしい気持ちになってしまった」
「ふっふっふー、今日は私がいるからね、お兄ちゃんも寂しい思いしなくていいぞ!」
「お、おう、なんか分からんけど、ありがとう……」
とりあえず二人でご飯を食べて、片付ける。片付けは日向も手伝ってくれた。
「ちょっとゆっくりしたら、お風呂入ろうか、シャワーでもいいか?」
「うん、大丈夫! 家でもそんな感じだからねー」
二人でまたのんびりとパソコンで動画を眺める。やはりこういう時テレビがあると便利そうだなと思った。今は安いのもあるみたいだし、お金貯めて買うようにするか。
しばらくのんびりした後、お風呂に入ることにした。じゃんけんの結果、勝った日向が先に入ることになった。
「よーし、じゃあお風呂に入らせていただきます!」
日向がビシッと敬礼した後、そのまま服を脱ごうとしていた……って、ちょ、ちょっと待て!
「お、おい! ここで脱ぐなよ、脱衣所あるんだから、あっちで」
「えー、お兄ちゃんだしいいかなって思ったんだけど。あ、お兄ちゃん、妹にドキドキしちゃったりしたんでしょー?」
「ば、バカ! 何もないから、早く入ってこい」
ぶーぶー文句を言う日向を押して、脱衣所に行かせた。しかし日向も背はあまり伸びなかったとはいえ、体つきが大人の女性に近づいてきたというか……ピンクか……って、何をしっかり見ているんだ僕は! ああ神様、こんな汚れた僕をお許しください……!
その後、交代でお風呂に入って、すべてを洗い流そうとしていた僕だった。
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