第64話「花火大会」
八月十四日。今日は毎年恒例の花火大会が行われる。
もうそんな季節なんだなと思うと同時に、毎年みんなで一緒に行ったなと、懐かしい気持ちにもなった。
もちろん、今年もみんなで一緒に行こうと話していた。僕は昼間のうちに実家に帰っていて、みるくと遊んでいた。
「団吉、一人暮らしはどう?」
「あ、大丈夫だよ、それなりにできてると思う」
「そう、よかったわ。足りないものがあったら言いなさいね」
「うん、ありがとう」
「お兄ちゃんも立派に大人生活してるねー! よいことではないかー!」
「お、大人生活ってなんだ……? まぁいいか。日向はちゃんと課外授業受けてるか?」
「うっ、その話はしないでください……胃液が上がってきそう……」
胸を押さえて苦しそうな顔をする日向だった。僕と母さんは笑ってしまった。
そんな話をしていると、インターホンが鳴った。出ると絵菜、真菜ちゃん、長谷川くん、舞衣子ちゃんが来ていた。
「いらっしゃい、みんな集まって来たんだね」
「う、うん、真菜が声かけてくれて」
「お兄様、お久しぶりです! また大人になったような気がしますね」
「お兄さんこんにちは! 僕もお久しぶりになりました」
「団吉さん、こんにちは……うちはちょくちょく会ってるね」
「そうだね、みんな元気そうでなによりだよ。あ、そろそろ行ってみようか」
母さんに見送られて、僕たちは川沿いまで歩いていく。火野と高梨さんとは向こうで待ち合わせにしている。それも変わらないなと思った。
「お兄様、一人暮らしはどうでしょうか?」
「ああ、ちゃんとできてるんじゃないかなって思うよ。自分で言うのもどうかと思うけど」
「まあまあ、それはすごいです! また遊びに行かせてください」
「団吉さん、偉いよね……さすが大人って感じ」
「ほんと、お兄さん素晴らしいです! 僕も遊びに行かせてもらえると嬉しいです」
「ふっふっふー、お兄ちゃん、今度泊まりに行ってもいいかな?」
「あ、ああ、いいよ。みんなも遊びに来てもらえれば」
な、なんか褒められると恥ずかしい気持ちになるな……自分では普通にしているだけだと思っているんだけどな……。
「ふふっ、団吉は後輩にもモテモテだな」
「そ、そうかな、なんか褒められると恥ずかしいね……」
そんな話をしながら、川沿いにやって来た。今年も人がたくさんいるようだ。火野と高梨さんはどこかな……と探すと、向こうで手を振っているのが見えた。あの二人は背も高いから見つけやすいな……くそぅ、イケメンと美人がうらやましい。
「おーっす、みんな久しぶりだな、なんかこういう時じゃないと会えなくなっちゃったなー」
「やっほー、お久しぶりだねぇ。あ! みんな変わらず可愛いねぇ! お姉さんといいことしない? ふふふふふ」
「た、高梨さん、ちょっと危ない人みたいだよ……って、これもなんか懐かしいね」
僕がそう言うと、みんな笑った。
「そういや団吉は一人暮らし始めたんだよな、どうだ? 慣れてきたか?」
「ああ、うん、なんか家事のコツも分かってきて、一人でもなんとかなるって感じかな」
「おおー、日車くんもすごいねぇ! あ、一人暮らしってことは、絵菜を連れ込んであんなことやこんなこと……やだー、日車くんも男だねぇ」
「え!? い、いや、あんなことやこんなことって何……!?」
う、うう、すみません、連れ込んでいるのは本当です……! 僕と絵菜が俯いていると、火野と高梨さんが笑った。
「まぁ、俺らも大人になったしな、いろいろあるってもんだぜ」
「そだねー、あ、みんなみんな、また出店巡りしない? お姉さんちょっぴりお金持ちだから、おごるよーふふふふふ」
高梨さんがそう言いながら、日向たち後輩を連れて出店の方へ行ってしまった。
「た、高梨さんは相変わらずだね……」
「まぁ、あれがいつもの優子だな。優子も元気そうだからよかった」
「そうだな、なんか高校時代を思い出したぜ。そういや団吉は今年は同窓会に行かなかったのか?」
「ああ、サークルの旅行とかぶったから、行けなかったよ。まぁこれで最後ってわけじゃないし、いいかなと」
「そうだな、また集まることはあるだろうから、気にしなくていいかもな」
火野があははと笑った。火野は大人になってますますイケメン度が上がってないか……? くそぅ、これだからイケメンは困る……。
その後、みんなが戻って来て、時計を見るとそろそろ花火が打ちあがる頃かなと思っていたら――
ドーン、ドーン――
今年も花火が打ちあがり始めた。綺麗な花火が夜空を照らす。
「おー綺麗だなー、色々思い出しちまうなー」
「ふふっ、火野はすぐ自爆するよな、ガチガチだった火野が懐かしい」
「お、おお、あれは俺の人生で一番の勝負所だったからな……仕方ねぇんだよ」
慌てる火野を見て、みんな笑った。そう、火野はこの花火大会で高梨さんに告白をして、二人がお付き合いするようになったのだ。厳密に言うと日付は違うが、二人の記念日はこの花火大会といってもいいかもしれない。
ドーン、ドーン――
「綺麗だな……」
僕の隣で絵菜がつぶやいた。本当に、夜空に上がる花火がとても綺麗だ。そしてこうしてみんなで一緒に花火大会に来れることが、僕は嬉しかった。
「そうだね、みんなで見に来ることができて、嬉しいよ」
「お兄ちゃん、お兄ちゃん」
その時、日向が僕をちょいちょいと突きながら話しかけてきた。
「ん? どうした?」
「さっきも話してたけど、明後日の土曜日、泊まりに行ってもいいかな?」
「ああ、いいよ。布団もあるし日向も寝れるよ。まぁ夏だからそのへんにごろ寝でもかまわないけど」
「ありがとう! あー楽しみになって来た!」
「お、おう、ちゃんと夏休みの課題は持ってくるんだ――」
「お、お兄ちゃん! それはいらないものと相場が決まっております!」
「決まってないよ、ちゃんと勉強もするんだからな」
「う、ううー、お兄ちゃんのバカー、アホー」
ぶーぶー文句を言う日向だった。話を聞いていたのか絵菜がクスクスと笑っていた。
「ふふっ、日向ちゃんも、もしかしたら団吉がいなくて寂しいのかもな」
「そ、そっか、そうかもしれないね……いくつになっても兄離れできない……」
ドーン、ドーン――
色とりどりの花火を見上げながら、これまでも、そしてこれからも、みんなで見に来ることができればいいなと思っていた。
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