第61話「宴会と想う気持ち」
それから僕たちは男性陣の部屋でお酒を呑んで楽しんでいた。
「ぷはーっ、ビールがうまい! ねぇ拓海くん呑んでる~? 遠慮してるんじゃない~?」
「え!? い、いや、そんなことはないよ。亜香里さん今日もたくさん呑んでるね……」
お酒を呑んで楽しそうな川倉先輩……は、拓海に任せておけば大丈夫そうだな。
「うふふー日車先輩! 夕飯は美味しかったですねー! 味わったことのない深い味というか!」
「そ、そうだね、美味しかったと僕も思うよ……って、ち、近――」
「ダンキチ~、のんでる~? びーるおいしい~、いっしょにのも~」
「あ、う、うん、ビール美味しいね……って、ち、近――」
橋爪さんとエレノアさんにぐいぐい迫られて、僕はドキドキしていた……って、僕も男なんだな。
「団吉くんは本当に人望が厚いよね、きっと優しい団吉くんだから、みんな頼りたくなるんだろうね」
慶太先輩がビールをちびちび呑みながら言った。いつものように顔は赤かった。
「ま、まぁ、慶太先輩とお会いする前は、友達が少なくて一人だった時もあったんですけどね……」
「おや、そうなのかい? 団吉くんの目を初めて見た時に、ボクは安心して生徒会を任せられると思ったよ。そしてボクの期待通りに団吉くんはこなしてくれた。もっと自信を持っていいと思うけどね」
「そうですよ、日車先輩がいたから、僕も頑張れました。本当に感謝しているというか」
「あ、そ、そっか、なんか恥ずかしくなるのは気のせいかな……」
なんか恥ずかしくなって俯くと、慶太先輩と天野くんが笑った。
……はっ!? そ、そういえばさっきからおとなしい人がいる。ふと横を見ると、じーっと僕を見つめる成瀬先輩がいた。
「あ、な、成瀬先輩、お酒は美味しいですか……?」
「……ふふふ、美味しかよ~、団吉くんモテるけん、うらやましかね~、私にも優しくしてほしか~」
「え!? あ、は、はい……って、ち、近――」
さらに博多弁全開の成瀬先輩までぐいぐい僕に迫っていた。こ、これが慶太先輩の言う人望なのだろうか……深く考えたら負けかなと思った。
「あはは~、団吉くんは相変わらずモテモテだね~。あ、焼酎呑まない?」
「ダンキチ~、びーる、びーるおいしい~」
「ああ! は、はい、いただきます……あはは」
ま、まぁ、この場が楽しければそれでいいかなと思った僕だった。
* * *
しばらくみんなで楽しんだ後、眠そうにしている人も出てきたため、この場は解散となった。拓海と僕で酔っ払った女性陣をなんとか部屋まで連れて行った。僕もそれなりに呑んだが、笑いが止まらなくなることなかったようだ。よかった。
「なんとかみんな寝たようですね」
天野くんがぽつりと言った。慶太先輩と拓海は布団に入るとあっという間に寝てしまった。僕は逆に目が覚めたというか、なんだか元気だった。
「そうだね、女性陣が寝てくれるか心配だったけど、なんとか寝てくれたようで……」
「あはは、お疲れさまでした。日車先輩は眠くないのですか?」
「うーん、なんか逆に目が覚めた感じがして……お酒も入っているからそのうち眠くなるとは思うけどね」
「そうですか、あの……よかったら僕とお話させてもらえますか?」
真面目な顔で言う天野くんだった。何かあったのだろうか。
「うん、いいけど……どうかした?」
「あ、その……実は麻里奈がお仕事が忙しいみたいで、なかなか時間が合わなくて会えないというか……アイドルとしてお仕事を頑張っている麻里奈を見てると、僕なんかがそばにいていいのかなぁって、ふと思うことがあって……」
天野くんが小声でそう言った。な、なるほど、恋愛の話だったか。天野くんと東城さんは高校時代からお付き合いをしている。東城さんは進学をせず、アイドルとしてのお仕事に専念するということで、今頑張っているところだ。
「そ、そっか……なんか、自信がなくなった感じ?」
「……そうですね、自分に自信がないというか……あ、麻里奈が嫌いになったとかではないです。もちろん好きなのですが、僕なんかより芸能界にもっといい人がいるんじゃないかなって思うことがあって……そんなことを思う自分も嫌で……」
天野くんが下を向いた。たしかに大学生とアイドル、住んでいる世界は違うのかもしれない。でも、好きだという気持ちがあるのなら、もっと自信を持っていいのではないかと思った。
「……天野くん、たしかに進んだ道が違うから、不安になる気持ちも分かるよ。でも、天野くんは東城さんが好きって言ったよね。その気持ちを大事にするといいと思うよ。東城さんもきっと、天野くんと会えなくて寂しいって思ってるんじゃないかな」
「……なんかこんなに離れているのって初めてで、つい不安になってしまいました……日車先輩と沢井先輩も進んだ道が違いますが、仲良くできてますか?」
「うん、僕たちも離れてみて、お互いを想う気持ちはもっと大きくなった感じがするよ。そういえばみんなバラバラになったから、もしかしたら天野くんのように不安になっている人もいるかもしれないね」
「……そうですか、日車先輩は強いですね。人望が厚いのも分かる気がします」
「え、あ、いや、そうでもないと思うけどね……あはは。そ、それはいいとして、東城さんに明日楽しんでることをRINEで伝えてみたらどうかな? きっと嬉しいと思うよ」
「そうですね、そうしてみます。たとえ離れていても、お互いを想う気持ち……ですよね」
「そうそう、不安になりすぎるのはよくないから、そこを自分の中で意識しておくのも大事なんじゃないかな」
「はい、ありがとうございます、なんか心のつかえがとれたような気がします」
天野くんがニコッと笑顔を見せた。うん、その笑顔があれば大丈夫だろう。
「それならよかったよ。あ、明日もあるし、僕たちも寝ておこうか」
「そうですね、二人で寝不足なんてなったらよくないですね。じゃあ寝ますか。おやすみなさい」
「うん、おやすみ」
天野くんが布団に入ったのを見て、僕も布団に入る。みんなそれぞれ考えていることがあるのだな。でも、やはり大事なのは『お互いを想う気持ち』だ。僕も絵菜を想う気持ちは誰にも負けない。そんなことを考えながら、眠りについた。
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